秋 - 46
「どりゃあ! どがんやこれえ!」
ダイビングした後、相手レフトの新田は、降板直後にも関わらず思い切りの良いプレーで雄一の打球をキャッチしてみせた。
「あーくそ、またこんなんかよ!」
完璧に狙い球を打ったつもりだったため、雄一は一塁手前まで走ったところで思わず声を荒げて立ち止まる。
「ドンマイドンマイ!」
「良い流れですよ!」
肩を落とす雄一に、チームメイトが励ましの声をかける。
「よく当てたな、初見だろ? あのチェンジアップ」
「狙ったんだよ、あれでも」
先に守備に向かおうとして出てきた上和に尋ねられ、雄一は悔しさを押し殺すように返す。
「中光、グローブ持ってはよ出ぇ、ライトじゃ」
「え」
「えーじゃないわ、ちゃんと守ってこんかい」
「あ、はいっ!」
監督に引き続き試合に出してもらえるとは思わず、怯んだ後雄一は大きく返事をする。
「先輩!」
そしてベンチを飛び出そうとしたところで、葵田がやや上擦った声で呼び止めてきた。
「……」
「……お願いします」
「何がだよ」
「全部ですよ、俺の代わりに出るんですから」
それは本心なのか、悔しさの裏返しか。
だがあえて呼び止めてまでそう声を発したのだ、彼もまた試合に勝ちたがっているのだろう。
「当たり前だろ」
雄一は短く答えて、グラウンドに走る。
葵田の視線を直視すれば、彼の内心のプレッシャーに呑まれそうな気がしたからだ。
試合は六回両チーム三人で攻撃を終え、七回表。
臣川は淡々とツーアウトを取って四番冨川との勝負。
(狙ってきそうだな……)
ライトの守備につく雄一がそう警戒していた時、甲高い金属音が鳴り響く。
冨川が初球を打ち返した音だった。
「あ、やばこっちくる、か!?」
右打者冨川の打球はライトへ伸び、高々と舞いながら雄一の頭上を越えていこうとする。
「中光間に合うぞ!」
センター上和の声を背に、雄一はフェンスに向かって走る。
(っ! 際……!)
打球はフェンス手前でワンバウンド、だが雄一は走った勢いでフェンスにぶつかりそうになり、立ち止まったところでバランスを崩す。
「三塁三塁!」
「っ!」
上和の指示を頼りに捕球してすぐさま雄一は体の向きを変えて返球する。
ボールは鉄山を中継して三塁に到達するも、間一髪でセーフ。
ツーアウトながら三塁とピンチが生まれてしまった。
「悪い、クッション遅れた」
「あれはしょうがないってーの」
上和に肩を叩かれ気持ちを切り替える雄一。バッターボックスには、先程雄一の打球を好捕した新田の姿があった。
(今度はこっちの番ってか……?)




