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秋 - 45

「初対戦は困るな……」

 マウンドを見据えながら、雄一は金属バットを手に打席へと向かっていく。

 数分前、あのピッチャーと対戦する筈だった後輩は、今ベンチに下がっていた。


「……っ」

 監督に呼び止められた葵田は、一度だけ天を仰ぐ。

「……ちゃんと決めてくださいよ、先輩」

 しかし雄一がベンチから出てきたところで、彼は何かを飲み込むようにして小さな声でそう言葉をかけてきた。

「ん、ああ……」

 雄一は虚を突かれてまともな返しが出来ないまま打席へとやってきていた。


(これじゃ俺が下みたいじゃねえか)

 前の試合の時にはなかった、後輩との差が迫っているような危機感に肌が粟立つ。

 嫌がおうにも集中力が高まる中、試合は再開される。

 初球真っ直ぐ、二球目はスライダーでストライクを奪われ、雄一は一度打席から離れて息を整える。(外してくる、外してくる……)

 気持ちを落ち着けながら、相手ピッチャーを再度確認する。

 登板直後でスタミナは十分、失投を待っていても来るかどうかは分からない。

(狙う球を、絞る……!)

 余計な詮索は無駄だ、雄一は単純な思考に切り替えて次の球を待つ。


(スタミナ考えないからもたないんだろ、あの馬鹿)

 レフトへ移動した仲間の先発ピッチャーを一瞥して内心で悪態をつきながら、野賀は投球モーションに入る。

 正直、実力はチームで一番だと疑っていない。

 コントロールも変化球の出来も秀で、スタミナもある。

 強いていうなら球威ぐらいか、新田に負けている点を挙げるならば。

 だから自分が背番号一でない事に、彼は不満であった。

 代打で出てきた選手に対し、二球の真っ直ぐでストライクを奪い、三球目はアウトコースの縦に割れるカーブ。

 相手は手を出しそうになって寸前で引っ込めボールになる。

(少し離れすぎ、かよ)

 伸びのあるストレートをアウトローに投げ込むが、今度はバットの先に当てて一塁線へのファールとなる。

(無駄な球数が……)

 思わず舌打ちが漏れる野賀、打ち取るプランが狂うと苛々するのは彼の悪い癖だ。

 そこでキャッチャーの梅谷がある球を要求する。

「チッ」

 癪だが仕方がない、このイニングだけで投げ終わるつもりはないため、出し惜しみはしないと野賀は割りきり、その一球を投じる。

 打者のタイミングを外すためのチェンジアップ、低めにコントロールされたそれは絶妙な遅さで ミットへと向かっていく。

 反応出来ないだろう、そう直感しベンチに向かって体を動かそうとした時だ。

「レフトだぁーっ! 新田ー!」

 打撃音に混ざって、キャッチャー梅谷の叫び声が鼓膜を震わせたのは。


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