秋 - 41
五回表、臣川は先頭の三番バッターを打ち取った後、四番冨川を迎えた。
初球を捉えられたものの高く打ち上がり、ライト前へ。
「っ、ライト逆風!もっと前!」
だがキャッチャー乃村はすぐ様叫んで指示を出す、打球の勢いがセカンドの頭上辺りで失速していたのだ。
「うおっ!」
「おらぁ葵田ぁ!」
チャージする葵田の数メートル先で打球は地面を跳ね、出塁を許してしまう。
「っ……すいません!」
葵田は謝るも、臣川は不機嫌そうに顔を歪める。
「臣川、切り替えて!」
乃村が慌てて声をかけるが、五番新場に対しての初球が乱暴に投げただけの棒球になってしまう。
「らっしゃあ!」
ぶん回すタイプのバッターなのが災いし、バットの先端ながらも打球は逆方向のライト前へ。
葵田は今度はチャージをしっかりかけて捕りに行くも、ボールは手前でバウンドして大きく弾む。
「おっしゃあああ! ラッキーラッキー!」
詰まらなければライナーだったかもしれないが、不運としか言い様がない。
だが臣川の苛立ちを逆立てるには十分で、マウンドをあからさまに強く踵で蹴りつけていた。
「なにムキになっとんじゃあ、ガキじゃのう……久利」
「うっす」
見かねた監督が伝令を送り、状況を落ち着かせるためにタイムがかかる。
「中光ぅ」
「はい?」
「守備練習はしとったよな?」
その質問が何を意味しているのか、雄一は考えた後に腰を上げて、
「勿論です」
「おぅし、じゃあ準備しときい」
自らの出番が近い事を悟り、一度グラウンドを見やった。
視線の先には、二度不用意な守備をしてバツの悪い顔をしている葵田の姿があった。




