秋 - 38
「おっしゃあこれで上がりしゃあ!」
力強いストレートを投げ放ち、茶色いユニフォームを着た長身の投手が高らかに叫ぶ。
「うーし、ナイスボール。んじゃ上がんぞー」
「どうちゃウメちゃん、良いツーシームやかろう!」
「いや、どう見ても直球だぞ。腕の振り方だけ派手になってたしな」
「はぁん何やんそれ、ちゃん見てえなあ」
「ストレートとカーブだけ投げとけば言いんだよ、シンちゃん」
「そいじゃあ格好良くないちゃあ、時代の最先端は動く球たい! フォーシームは遅か!」
テンション高めのピッチャーの名は新田、九州から単身進学してきた本格派の投手である。
その彼を冷静に諌めているのは同級生のキャッチャー梅谷。
彼は地元出身で新田との付き合いは一年余りだが、実戦を共にした回数は数多い。
「お、野賀ちゃん、そっちも上がりたい?」
「……あぁ」
新田の言葉に無愛想に返したのは、同学年のサウスポー野賀。
新田とは対照的なコントロールタイプのピッチャーで、打たせて取るもう一人のエースである。
「なんちゃ、相変わらず冷たいのう」
「お前がうるさいからな」
「なんでさ! 俺のどこがやかましんか」
「怒鳴るなっての! それがうるさいんだ!」
喚きあいながら、二人は他のチームメイトと一緒に監督の元へと集合する。
「オッケー揃ったな! 明日は準決、勝てばほぼセンバツ決定だ。大事な試合なんだから、今日はもう練習するなよ!?」
「うーっす」
「俺は練習し過ぎて本番に疲れる馬鹿が一番嫌いなんだ! 俺が学生の頃みたいになるなよ!」
「監督前も聞きましたって~」
部員達から笑い声が起き、監督は顔をしかめながらそれらを諭す。
「とにかくだ! 普通に戦えばお前らは強い! だから普通にやれ、いいな!」
「うーす!」
やや砕けた雰囲気の中にも引き締まったものがあり、部員達に油断はない。
彼等は明日地区大会準決勝に望む完常学園。
水美高校のある県の隣の地域に位置し、甲子園の常連として有名である。
そして準決勝で対戦するのは水美高校、下馬評では圧倒的に完常の有利とされている。
「さくっと勝っちゃろうや、なあ」
「分かってる、だからツーシームの練習はすんなよ?」
「なーんそんな言うんなら、曲がっとったら」
気負う様子もなく、彼等はグラウンドを去っていった。




