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秋 - 37

「なんかゴミ多くない? 誰よ前の担当……」

 放課後前の掃除の時間、校舎一階の廊下で箒を掃いていた早希はやけに多い埃に静かに苛立っていた。「夕木ゆきはあっち掃いてくれる?」

「分かったよ~」

 同じ場所の担当の、陸上部仲間の夕木の緩い返事を聞いて、早希も持ち場の掃除を始める。

 数分後、廊下と階段が交わるところまで進んだ時、早希は自分とは別の人物が箒を掃いている事に気がつく。

「あ……先輩」

「うん? あぁ、鈴浪か」

「ちょっと、ゴミこっち持ってこないでくださいよ」

 どうやら階段の掃除が二年の担当の区域だったのは知っていたが、野球部の中光がやっていたとは予想していなかった。

 中光は階段の上から掃いてきたようだが、掃き方が雑なせいで埃が廊下の方にまで散ってきていた。「あ~取る取る」

「絶対取る気なかったでしょ」

「疑い過ぎだっての」

 その後それぞれ塵取りでゴミを回収していく中、気まずい雰囲気を破って早希が口を開いた。

「順調みたいですね、野球部は」

「ん? まあな」

「その感じだと、もう大丈夫なんですか?」

 何が、と雄一は聞き返す事はなく、少し視線を泳がせてから、

「マシにはなった、って感じかな」

「はぁ」

「聞いておいて興味なさそうな反応すんなよ」

 早希自身もなぜ中途半端な返事をしたのかよく分からなかった。

 自分はどんな返答が来るのを期待していたのだろうか。

「……ま、良かったじゃないですか、先輩は」

 塵取りにゴミを入れるように箒を掃く早希の様子が気にかかったのか、雄一はこう尋ねてきた。

「そっちこそ、またバッティングセンター行った方がいいんじゃないか」

「はい? なんでですか」

「そんな顔してたから、こう、よくわかんねえけど」

 指摘されて、早希は自らの頬に手をあて、口を尖らせる。

「そんな、分かりやすかった、ですか?」

「まあな、何かあったか?」

「……別に何も」

「おいおい、前に俺がスランプなとこ聞いてきたくせに、そっちはダンマリかよ」

「前って……あれはたまたま知ってたっていうか……」

 文化祭の時に彼を励ました事を思い出し、柄にもない行為をしてたなと少し恥ずかしくなってくる早希。

「……私は、悩んでる訳じゃないですよ」

「そうなのか?」

 はい、と短く返事をして、早希は続ける。

「自覚してるだけです、まだこれからだって」

「自覚って……実力をか?」

「今の実力を、です」

 埃を取り終え、中光に背を向ける早希。

「だから、先輩に慰めてもらう事はないです」

「っ」

「……どうせなら、誉められる方が好きですし」

 そう言い残し、早希は立ち去る。

「は、おい……」

「じゃ、頑張ってください。私も頑張りますから」

 励まされた事はあったが、まだすごいと言われた事はない。

 そして今はまだ、そんな結果を出していない。

「よしっ」

 早希の気持ちはやけに高ぶり、掃除の後にある部活へと意識は向けられていた。

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