秋 - 36
「はー、ねむ」
試合を終え解散した後、雄一は喉の渇きを感じてふらりとコンビニに立ち寄っていた。
汗臭いユニフォームのまま立ち寄るのは少々躊躇ったが、客の人数が少なかったので入る事にした。「エナジーエナジーっと……」
好物であるエナジードリンクを買おうと飲料水が並ぶコーナーへと足を向ける。
「うわ売れてんなあ、さすが」
残り僅かになった缶を冷蔵の棚から取りだし、手にしたカゴへと入れていく。
「買い占める奴、イメージ悪いですよ」
その時、背後から若い少年の機嫌悪そうな声がして、雄一はゆっくりと振り返る。
「……葵田?」
立っていたのは見覚えのある後輩であり、顔は見るからに曇っている。
「いるんならやるぞ?」
「いや、大丈夫ですんで」
葵田はそう言うとすぐさま立ち去ろうとして、足を止めた。
「貰うのはいやなんで」
「んん?」
「今度は打ちますよ、そしたら代打はいらないでしょ」
小さいながらも強い反発の意思がこめられた言葉に、雄一は僅かに顔をひきつらせる。
「……それじゃ」
今度こそ店の奥に去っていこうとする葵田。
「っ、別に良いけど、お前はチーム勝って嬉しくないのか?」
そんな彼に雄一は、ドリンクを入れた籠を抱え直しながらそう答える。
「チームが勝ったらそれでいいなんて、お人好し過ぎんでしょ」
「確かにな、けど監督は自己中が嫌いなタイプだぜ? レギュラーになるならバントもしないとな」
葵田とは反対方向に歩き出しながら、雄一はいつもより嫌味たらしいしゃべり方でそう言った。
「っ、分かってますよ!」
カッとなる葵田から逃げるように雄一は早足でレジへと向かった。
(まともに喋ってたら、腹立ってきそうだ……)
葵田は雄一からレギュラーを奪った相手、打撃も守備も彼の方が上手い。
だからこそ意識するが、同時に雄一はこうも感じていた。
(やっぱ、俺の方がまだいい……)
今日の試合で確信した、自分はまだ劣っていないと。
傲慢でも嫉妬でもない、結果が示している、その事実を自信と受け止め、雄一は次の試合へ向け静かに闘志を燃やすのであった。




