秋 - 35
「ムカつくて、なんでや?」
「才能はあるくせに半端なやる気で、出来るくせにヘマして凹んで……けど結局結果を残して……そういうの、ムカつくのよ」
「ん~、天才肌って奴なん?」
「そんな大物じゃないわよ、大物じゃないくせに斜に構えてるのが嫌なの」
あのクールぶった態度を思い出し、口を尖らせながら愚痴を漏らす早希。
「は~、なんや思てたよりしっかり見てるやんけ」
「っ! 見てないから!」
「まあまあ、なんか安心したわ、ミーハーなとこあるみたいで」
冴恵は背を向け、グラウンドの方へ向かっていく。
「ちょっと……?」
「行くでほら、時間は待ってくれへんのやから」
「っ……そうね」
さりげない一言に早希はふっと我に帰る。いくら悔やんでも今の実力は、今この時に変わることはない。
うじうじしている自分が馬鹿らしく思えた早希は、立ち上がって冴恵の後を追う。
(これじゃ自慢出来ないなぁ……)
あの人と次に話す時までには、何か成果を上げたいと、頭のどこかで思っていた。
けれど、焦っていた。
今すぐ成果を出す必要はない、いつか冴恵に追い付ければいい。
早希は頭を左右に振り、空を見上げる。
「見てなさいよ」
誰に対しての言葉なのか、自分でも分からなかった。
けれど、燻っていた意思が意地がそれだけで息を吹き返してきていた。




