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秋 - 34

「……はぁ」

 夕日差し込むグラウンドの隅、花壇の縁に腰かけた早希は疲労と落胆を溜め息として吐き出していた。「さっちゃんさっちゃん、そろそろ集合やで~?」

 声をかけてきたのは赤根屋、運動を終えて体を火照らせてはいるが、相変わらずテンション高く疲れてる感じはしない。

「……呆れる」

「ん?どしたん?」

「赤根屋は全然疲れてないみたいで、ちょっとムカついた」

「酷いな~すーちゃん、こう見えてヘトヘトなんやで?」

 それでも冴恵は嫌味にとる事なく、砕けた笑顔をしながらちょこんと隣に座ってきた。

「ベストに近づいたんやろ?」

「そうだけど……」

 何本も走り、調子も良かった。

 それでも冴恵には及ばず、彼女を追い抜くどころか並ぶ事すら敵わなかった。

 これが県大会常連レベルの走りかと、早希は落胆し、練習後にふて腐れていたのだ。

「せやなあ、今日のすーちゃんは焦っとるように見えたわ。走る前も後も」

「焦って……?」

「せや。ムキになっとらんかった? 顔ムッとしとったで」

 指摘され、早希は恥ずかしさと情けなさを誤魔化すように人差し指で頬を掻きながら顔を反らす。

「勝ちたいって、思ったから」

「あっはっは~その心意気はええ思うで!うちをそこまで気にしてくれてたんやて思うと嬉しいなあ」「っ、大袈裟なのよ、冴恵は」

「ほんまやって、てか名前で呼んでくれたな~! 素直になってええ傾向やで」

「なにそれ」

 弾丸のように駆け抜けるスプリンターとは思えない、朗らかな女子だと早希は呆れるように溜め息をついた。

「せやけど、やけにこだわんなあ……あ!」

 すると冴恵はなぜか嫌味な笑顔を浮かべ、ずいと早希の顔を覗き込むように首を伸ばしてきた。

「な、なによ」

「もしかして~、憧れの野球部の先輩にええ格好しとおてやる気になっとるとかちゃうやろなあ?」

 からからと笑いながらそう口にする冴恵、しかし早希の顔は一瞬凍てつくように固まった後、その頬を急激に赤に染め上げて、

「はぁっ! あんたそれ、誰から教えられたの!?」

「んとな~、あの子やほら、走り幅跳びの……」

「エリナね、もうほんとあの子口軽いんだから……!」

「意外やなあ、すーちゃんはそういうの興味ない思うてたんやけど」

「興味ないから!」

「またまた、でどんな人なん? その野球部の先輩って」

 また面倒な事になったと早希は頭を抱える。

 赤根屋の性格ではちょっと誤魔化すぐらいでは引き下がってはくれないだろう。

 早希は深く溜め息をついた後、視線を逸らしたままこう答えた。

「あの人は、ムカつくの」

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