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春 - 14

 日が登りきった午後三時頃、部活を終えて下校する早希は、エリナ達と別れた後、家のある住宅街へと続く勾配の急な坂をゆっくりと登っていた。

 部活で汗塗れになった体は既に乾き、ザラザラになった肌に気持ち悪さを感じながら、今日の部活での自分を振り返る。

(走り出してかの伸びは良いと誉められた、課題はスタート…ちゃんと出来てるつもりだったんだけど)

 顧問の飯川や町谷先輩に走りを誉められたものの、タイムはまだまだ平凡の域を超えない。

 オリンピックに出たい! というまでの大きな夢はまだないが、とにかくもっと短距離走者としてレベルアップしたい向上心は常に持っている。

 だからこそ、誉められた嬉しさよりタイムへの物足りなさを強く感じているのだ。

「明日は何もないけど…少し走り込んだ方がいいかも」

 部活が休みの休日は体を休める意味で軽いストレッチぐらいしかしていなかったが、レベルアップのためには何かもっと練習するべきではと、熱の抜けきらない頭で考える早希。

「ん、あれは、うちの制服……」

 視線をやや上げたところで早希は前方に水美高の生徒を見つけた。左肩に部活用バッグを提げ、野球部のユニフォームを着ているが、筋肉質というまでの体つきではない。

 早希と同じく流した汗が乾いて疲労感が目に見えるその顔は、どこかで見覚えがあった。

 というか、先日軽い口論をしたあの先輩だった。

(うわ……、気付かれたくないようにしないと)

 別に悪い事をしたつもりはないが、目を合わせるだけで気まずくなる自信は大いにある。

 無意識に忍び足気味になる早希。

(あ、目が合った)

 気配を感じたのだろう、男子生徒がちらりとこちらを向いて、互いに即座に目を逸らした。

 そのまま気付いていないフリですれ違おうと静かに足を進める早希。

 そしてちょうど彼の後ろを通り過ぎ、歩く速度を速めようとした、その時だった。

 ピピピピピピピピピ! と甲高い電子音が鳴り響いたのは。

 何事かと目を向けた早希は、それが自動販売機のアタリの音だと分かり安堵する。

「「あ」」

 続いて同じく音に驚いて周囲を思わず見回した彼と今度は誤魔化して逸らせないくらいきっちりと視線が重なって、早希は足を止めてしまっていた。


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