秋 - 33
「万戸、いい加減片付けろよ」
悔しさに打ちひしがられている万戸に、キャッチャー千谷が首に手を当てながら声をかける。
「っ、分かってるって」
「お前の球は通用してた、見てた人間はそう思ってたろうよ」
「けど負けたんだよ、俺は無数にいるただの負け投手でしかないだろ」
「だからなんだよ、お前は頑張ったって慰めてもらいたいのか?」
「あぁっ!?」
千谷の言葉に思わず声を荒げて振り返る万戸。
だが千谷は眉一つ動かさず、万戸と真っ向から向かい合ってさらに言葉を続けた。
「まだ一年あんだろ、終わってないならうなだれてんじゃねえよ」
「まだ夏があるだろ、お前がいれば勝てる!」
「何絶望してんだバーカ」
チームメイト達から飛んだのは、笑いの混じった叱咤激励。
だがその笑みは負けを気にしない気楽さから来るものではなく、悔しさを押し殺して出てきたものであるのを、万戸も気づいていた。
「チッ……どいつもこいつも、少しは戦犯探しぐらいしろや」
「それはネットの連中にでも言えっての」
うるせえよ、と万戸は吐き捨て、顔を左右に一度振ってから仲間達に向き直る。
「帰る、帰って練習する。付き合えやお前ら」
「はっ、偉そうに」
千谷に肩を叩かれながら、万戸は仲間達と共にベンチを後にした。
負けた悔しさを胸に残しながらも、燻るではなく悔いを晴らすべく闘志を燃え上がらせて。




