秋 - 30
「バンちゃん……」
被弾した万戸に駆け寄るも、かける言葉が思い付かないキャッチャーの千谷。
「っ……はぁ、まずった」
エースは天を仰いで失投を悔やみ、チームメイトも押し黙る。
「っ……いや、あれで入るのは、キツいわ」
頭を左手でかきむしりながら、苦笑いを浮かべる。
「……悪い、けど俺はまだ、負けたくない」
しかし、すぐに受け取ったボールを強く握り締めながら、胸に渦巻く感情を打ち明ける。
「あっ、たりまえだろ! まだ一イニングある! 次点取ってやるからよ! なあ!」
千谷の激励に他のナインも続けて声を上げ、暗くなっていた雰囲気を吹き飛ばそうとする。
「……ああ、頼むぜ」
そう答えた万戸は、仲間がポジションに戻った後、握ったボールを見つめながら、
(負けたら次の夏までお預け、そんなのゴメンだ。エースだろ俺は!)
あの憧れの舞台に、甲子園に一度立ってからずっと胸に残っている燃えたぎった感情。
期待と興奮と悔しさと、そんな気持ちが万戸に野球への闘志を増幅させた。
自分は知っている、あの舞台を。なんとしても、もう一度聖地で投げてやる。
それが彼に取っての唯一無二の使命であった。




