秋 - 29
「雄一ー! やったねー!」
「すげえぞ中光!」
乃村初め水美の部員が盛り上がる中、雄一はホームへ帰還する。
「おいしいとこ持っていきやがってぇー」
「俺が一番驚いてるよ」
先頭打者として出塁した日野と拳を突き合わせ、互いの活躍を称える雄一。
「バットの先だったけど、なんとか飛んだ。ほぼフライみたいなもんさ」
「あの万戸と初対戦で外野の頭を越したんなら十分だろぉー」
笑いながらベンチへ戻ると、予想通り手荒い祝福を受ける事となった。
「コノヤロウ、ここでホームラン打つかよ」
「おいしいところ持っていきよって!」
叩いてくる腕を押し退けながら、雄一は監督の前までやってきた。
「なー……狙って打ったんか?」
「いえ、たまたま飛びすぎただけですよ」
「ほうか、ならええわ。ようやった」
表情は変えないまま、監督も雄一の一打を称えてくれた。
「ナイス、雄一!」
「おう」
乃村と腕を交わしあいながら、雄一はようやく安堵の溜め息をつく。
(久しぶりだ、久しぶりだよなあ!)
体を内側から燃やすような熱の高ぶりに、雄一の頬が思わず歪む。
これが、チームに貢献したという喜びなのだ。
「ち……ぐ……っ」
遂に得た先制点に水美野球部が沸き立つ中、代打を送られてベンチに下がっていた葵田は輪の外で立ち尽くし、奥歯を噛み締めていた。
「おう、何しけた顔してんだよアオちゃん。点が入ったんだぜ?」
そんな彼の背中を叩いたのは、先輩でキャプテンの旗川。
「……喜んだら、認めてしまうって」
「何を」
「自分があの人より、下だって」
情けなくて、今にも自分の頭を叩きそうだった。
だがその行為は、今の状況には相応しくない。
「それだけでもお前は、十分チームプレイしてるぞ」
旗川は葵田の肩に軽く手を置き、気持ちの良い笑顔を見せる。
自分が越えた筈の相手の、自分が出来なかった活躍を見る屈辱を、葵田は奥歯を噛み締めて受け止める。
チームの誰もが中光の活躍に盛り上がる中、次こそはと、葵田はそんな負けん気を抱くのだった。




