秋 - 27
(右にスイッチ……リスクは冒せないな)
マウンド上で万戸は一度状況を確認し直す。
相手がワンストライクとなったところでバッターを変え、打席も左から右へと移動したためだ。
バッター中光に対しての初球、アウトコースに力強いストレートを投げ込むが、判定はボールとなる。(バットが動いた……打ちに来てたか)
積極的なバッターだと判断したのか、キャッチャーの千谷は警戒してもう一度外にミットを構える。「るぁあっ!」
目一杯振りかぶって投じたのはストレート、先ほどよりボール一個分中に入った、絶妙なコースだ。「ファール!」
中光はバットの先に当ててなんとか凌ぐが、カウントはツーストライクと追い込まれる。
(結構飛ばす……な?)
迷いないスイングに、相手バッターの打撃センスの非凡さが買いまみえ、緊張感が増す。
(どこにするんだ?)
慎重に行くべきだが、投手有利なカウントを活かしたい場面でもある。
視線で千谷のリードを求めると、彼はバッターの足元にミットを構えてきた。
(スライダー? そうか、真っ直ぐ狙いだからな)
クロスファイヤーは甘く入れば捉えられるが、際どいコースをつけばまずタイミングを合わせてはこられないだろう。
「んらぁっ!」
低く攻める、を意識して、思い切り投げ込んでいく。
狙い通り、ボールは鋭く横へ動いてバッターの膝元へ。
(よし、入る!)
ストライクギリギリのコース、打ち取ったと万戸は自信を得たが。
「ぐぃいっ!」
バッター中光は腕を畳んで器用にバットをゴルフクラブのように振り、スライダーに上手く当ててきた。
ガキンと気持ちの良い音が響き、打球はレフト方向へと飛んでいった。




