秋 - 25
「しゃああああっ!」
ピンチを切り抜け、マウンド上で雄叫びを上げる臣川。
「うるせぇな、外野まで聞こえてんぞ」
戻ってきた上和の言葉も取り合わず、臣川はスポーツドリンクを一口含んでからすぐにキャッチボールのためにベンチから出て行った。
「なら点取れよ、くそっ!」
チームメイトに聞こえないぐらいの声で、臣川は吐き捨てる。
それは悪意から出た言葉ではなく、勝ちたいという強い意志から思わずこぼれ出た感情であった。
夏、臣川は二番手ピッチャーとしてベンチに入っていた。
エースだった石中と共に活躍し、失点数なら臣川の方が少なかったくらいだ。
だが、チームは準々決勝で負けた。
強豪常有館との対戦、打ち込まれたのは先発していた石中であり、臣川に敗戦の責任はないが、臣川にはそんな事実はどうでもよかった。
チームが負けた、それだけがとにかく悔しくて、もどかしかった。
自分の活躍なで関係なく、臣川にとっては結果が全てなのだ。
(俺が抑える、だから点取れよ、勝つんだからよ!)
念じるように頭の中で何度も言い聞かせ、次のイニングに備えて投球練習を開始する臣川。
それと時同じくして、ベンチの方からチームメイトの歓声があがる。
どうやら先頭バッター日野がデッドボールで出塁したらしい。
「っ、取れよ。チャンス作れよオイ!」
得点のチャンスにまた本音が漏れる臣川。
だが勝利への意欲は、確かにその言葉の中にみなぎっており、すぐさまベンチの方へと向き直る。
「投げないんか?」
「俺に打席が回ったら、チャンスになってるからな」
播磨に振り返らないまま答え、歩みを進める臣川。
ふんぞり返るつもりはない、必要とあれば自分が決める。
執念を燃やしながら、臣川は試合の経過を見つめるのだった。




