秋 - 21
「っしゃあ!」
マウンド上の臣川が雄叫びを上げ、続けてアンパイアが三振をコールし、この回二つ目のアウトがスコアボードに灯った。
「万戸もだが、臣川も今日は特に球が走ってんな」
チームメイトが漏らすように、今日の臣川も許したヒットは一本のみの安定したピッチングを続けていた。
幸い相手チームは県大会での打率も高くない、臣川が簡単に打ち込まれるとは思えない。
この試合、どちらが先に点を取るのかが鍵になってくる。
「今日も、ミットだけで良いかもしれんし」
唯一の前の席で手にしたキャッチャーミットをいじりながら呟いたのは、控え捕手の播磨。
彼は捕手であるものの、試合展開によっては投手として登板する事もある器用な選手だ。
実際今の秋は試合出場は全て投手としてである。
「どうだろうな、あいつ急に荒れるから」
「はっはっ、それはあいつの前では絶対言わん方がいいぞ」
マウンドから戻ってくる臣川は、内容が良いにも関わらず機嫌が良さそうには見えない。
投手戦である以上ミスが許されない中、常に気を張っているのだろう。
「お主は準備しといた方が良いぞ、中光」
「え?」
播磨は雄一の方を見ないまま、右手の親指を立ててこう続ける。
「いつも物語を盛り上げるのはサブキャラだからな」
意味深げな言葉を残し、立ち去っていく播磨の背を見ながら、雄一は眉をひそめて、
「どういう意味なんだ?」
「ギャルゲーで好きだったサブヒロインのルートがダウンロードで追加されて機嫌が良いみたいだぜ」
竹中に説明され、雄一はあぁと声を漏らす。
播磨は自他共に認めるアニメオタクで、寮の部屋にも漫画やDVDを持ち込んでいるほどだ。
とはいえ試合中にはあまりそっち系の話はしないのだが、どういう意図があるのだろうか。
「わざわざあいつから励ましてきたんだ、応えてやれや」
「ん、そりゃあ……言われなくても」
竹中に返事をしながら、雄一はベンチへ戻ってくる葵田と向こうから出てくるピッチャー万戸を交互に見る。
「どっちも越えないとな、サブキャラなりに」
試合の流れの変わり目で出番は来る、試合の中盤にかかったところで雄一は気を引き締め直すのだった。




