秋 - 18
「相変わらずのクールさで嬉しいわー、やっぱスズっちは冷たい冷水みたいに冷えとらんとなー」
「三回ぐらい意味被ってるわよ?」
久しぶりに出会った冴恵は、以前と全く変わらないやかましいぐらいに明るい性格のままであった。「調子良いみたいね」
「いややわぁ、恥ずかしいやん。せめて全国決まったら言うてや」
最初に数本百メートルを走るという事で、レーンにまで移動する間、早希と冴恵は軽く言葉を交わしていた。
会うまでは気構えていたが、いざ顔を合わせると不思議と言葉がすらすら出てきた。
それも冴恵の持ち前の気さくさ故の事だろう。
このよく喋る女子こそ、県内の高校生ではトップクラスの実力を持つスプリンターである。
早希は彼女の走りに圧倒され、追い求めてきたのだ。
「では二人ずつ走ってもらって、タイムを取ります。今後のメニューに利用しますので、全力でお願いします」
仕切り役を務める丘南の女子に従い、短距離ランナー達はゆっくりとした動きでなんとなく列を作っていく。
「……」
「スズっち、早く並ぼうで?」
冴恵も後に続くように促してくるが、早希は体を動かす寸前で自身を制した。
「ん、どしたん?」
「……私、ちょっと欲が出てきた」
「は、何がなん?てか、なんかやらしいでその言い方」
にやにやする冴恵を見据え、早希は再度自身の心中に問う。
「……あの、すいません」
そして無意識のうちに管理役の丘南の女子に声をかけていた。
「一緒に走る人、希望したいんですけど、ダメですか?」
「え、んー何回も走るので結局は全員と組む事になると思うけど?」
「……そう、ですか。なら……」
いいです、そう言いかけたところで早希は自身の肩に誰かの手が触れてきた事に気づく。
「あ~三田先輩、うちも一回体力満タンの状態で一緒に走ってみたい人がいるんすけど、ダメですかね?」
赤根屋はそう言うと早希の方を見てにやりと笑い、早希は彼女が何を考えているのか読み取ることが出来た。
「もう赤根屋、あんたいつも勝手言うんだから……」
「へへ、すいません」
「で、誰なの? それ」
呆れながら三田と呼ばれた先輩に尋ねられ、赤根屋と早希は顔を見合わせた。
「この人です」
「この子!」
互いに指を指し、意思を示してみせた。自分が対戦したいという相手を。




