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秋 - 16

「はっ、はっ、はっ……んぁっ!」

 まだまだ肌を焼くには申し分ない秋の強い日差しの中を、早希のしなやかな脚が駆け抜けていく。

「おーっ! 鈴浪、今日のベストだぞ! やったな!」

 飯川の称賛を背に、百メートルを走り終えた早希はゆっくりと歩いてクールダウンに入る。

「すごいねぇ、すっかりエースじゃん」

 やや遅れて走り終えた同学年の女子・夕木ゆきが、普段通りのおっとりとした笑顔で話しかけてくる。

「っ、言い過ぎだって」

「本心だよぉ、隣で走ってて圧倒されるもん」

 元々運動部ではなかったせいか、夕木の走りはお世辞にも速いとは言えない。

 特に胸あたりがよく目立つ豊満な体を揺らし、息を激しく乱しながら、なんとか練習を終えるのがやっとだ。

「でも雰囲気変わったよねぇ、鈴浪ちゃん」

「え、そう?」

「うん、鋭くなったっていうかぁ、アスリートみたいっていうかぁ」

 夕木は純粋に誉めてくれているのだろう、しかし早希は素直に喜ぶ気持ちにはなれなかった。

(なんか足りない……)

 町谷を初め、実力が上の三年生がいなくなって、走る相手も少しレベルが落ちた。

 だから一着になる回数も増えてきた、だがそれは自分が強くなったとはお世辞にも言えない。

 早希はその思いが結果に喜ぶ気持ちに邪魔をして、彼女の表情を曇らせていたのだ。

「よーし今日はここまで! 集合ー!」

 練習後、部員全員が集められ、顧問の飯川が挨拶をする。

「今月末の記録会まで後二週間だ、先週の大会じゃ鈴浪初め自己ベストを出した者が多かった、練習に手を抜かずに取り組んできた結果だと思う。是非続けてほしい!」

 この時期の陸上はとにかく記録会に出て実戦を繰り返す事となる。

 来年度に向けて基礎を向上させる大事な時期だ。

「そこでだ、今週土曜日に他校に出向いて遠征に出る事になった」

 飯川の突然の宣言に、部員達の間にどよめきが起きる。

「どこに行くんすか」

「聞いて驚くなよ、県南筆頭と言われる丘道南だ!」

 部員の質問に答える飯川の口にした校名に早希は驚いて思わず目を丸くした。

「て言っても他に何校もくるんだけどな、陸上部同士の交流目的で丘南が企画したのに参加させてもらう形だ。土曜の朝七時に……」

 飯川が説明する中、早希の頭にはある人物の姿が浮かび上がっていた。

(あの人に、赤根屋に会える……?)

 春に出会い、圧倒的な走りを見せた同年代のスプリンター、赤根屋冴恵。

彼女は確か丘道南の学生だった筈だ。彼女のいる強豪の練習に参加出来る、ならば自身のレベルアップに繋がるかもしれない。

(見得張っちゃったしね)

 早希が向けた視線の先は校舎。

 その外壁には、野球部の地区大会進出を祝う垂れ幕がかけられていた。

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