秋 - 15
力量差は存在していた、同じ県内ベスト4でも、駒の数や能力では圧倒的に水美が有利であった。
「ふっ!」
初球、二球とアウトコースのボール球を見送った三球目、詰まらせる目的で投げてきたシンカーは甘く入り、雄一は迷わずバットを振るって芯で捉えた。
打球はレフト前にふわりと浮いて落ちる当たりとなり、二塁ランナーが一気にホームへと帰ってくる。「っしゃあ!」
一塁を走り抜けながら叫ぶ雄一、ベンチも貴重な追加点に沸き上がる。
「さすがやん、中光」
一塁コーチャーを務める関西弁かぶれの内野手金沢がハイタッチしながら称えてきて、雄一は片手で返しながら、
「クビかかってるんでね」
「よう言うわ、切り札て監督も言うてたで?」
「切り札としてのクビ、って事さ」
チームに貢献出来たのは確かに嬉しい、だが正直に言うと自身にヒットが飛び出した事への喜びの方が大きかった。
打ちたい気持ちは以前と変わらない、変わったのは結果が出たか出なかったかの違いだ。
(こっから……)
復調の一歩を踏み出せるか否か、それは雄一次第だ。
必ずものにして、試合に出てやる。
燻っていた闘志をようやく感じ、その目にギラついた光を灯らせる。
(こっから、取り返す……!)
満足などしていない、まだレギュラーの座は後輩葵田のものだ。
その葵田を黙らせるくらい、効果的な一撃を。
(……得点圏での打率だけなから、あいつに勝ってるからな)
円山のスコアブックの情報から読み取ったデータは、自分の力に自信を持つきっかけになった。
いや、きっかけにした。
何かを変えて、巻き返す。
雄一が雄一として活躍するための一歩を踏み出したのだ。




