秋 - 14
「中光、行ってこい」
監督に指示され、雄一はすぐさまバットを片手にベンチから飛び出した。
「ちょ、待ってくださいよ監督!」
すかさず待ったをかけたねは、今まさにバットを持ってネクストバッターズサークルに向かおうとしていた、スタメンの葵田だった。
「なんじゃ」
「俺、打てますよ! やれます! だから……」
必死な形相で、葵田は監督に打席に立たせてくれるように訴えかける。
「葵田、今は試合中やぞぉ、流れを乱す行為はやめれって、普段から言うとるやろ」
しかし監督は彼を見ず、顎に手を当て首を傾げるだけで、まるで取り合おうとはしない。
「なんでですか! 俺の方が……!」
「おい、やめろ!」
慌ててキャプテンの旗川が肩を掴んで制止するが、それでも葵田は何かを言いたそうに顔を真っ赤にしながら監督に食ってかかる。
「葵田、お前が調子ええ事ぐらい分かっとるわい、安心せえ」
「なら……!」
「じゃがのう、」
顎ヒゲを手でいじりながら、視線はあくまでグラウンドに向けたまま、野間笠は続ける。
「あいつの方が匂うんじゃ」
「は?」
「中光の方が、大事なとこで打つっちゅう匂いがのう」
その言葉を聞きながら、雄一はゆっくりとネクストバッターズサークルへ歩みを進める。
(持ち上げないで欲しいんだけどな)
七番日野が四球を選んだところで、野間笠は予定通り代打に雄一を指名した。
「っ、~……」
一度会釈してから打席に入る雄一。
リードはしているが接戦、チャンスはそうそう巡ってこない。
ならば絶対に、ここで点を取らなければ。
(シンカー……甘くなってきてたよな)
三瀬は決め球にこだわりのあるピッチングをしていたと、雄一は考えていた。
相手の控えの投手は二人、それも今大会は一度も登板しておらず、ピンチを任せられるような選手ではない。このまま三瀬が続投となるだろう。
全試合を一人で投げてきたのなら疲れも溜まっている筈だ。
甘くなる球が、絶対にある。
(ここが俺の、唯一チームに貢献出来るとこだ!)
そして雄一がバットを構え、プレイが再開された。




