秋 - 11
「うぅん、どうも点が取れんようじゃ」
監督野間笠が顎に手を当てて唸りながら、グラウンドの戦局を見極める。
試合は投手戦、というよりも決め手を欠く貧代戦となっていた。
水美の臣川、県工の三瀬共に毎回のようにランナーを出しながらもなんとか凌いで無失点の投球を続け、五回表を迎える。
二番上和、三番乃村がヒットで出塁し、四番旗川の犠牲フライで上和が三塁へ進み、五番慶野の三塁ゴロの間に一点を得た。
「四番五番でタイムリー無しとはしょっぱいのう」
監督がぼやく中、雄一は帰ってきた上和とハイタッチしながらマウンドの三瀬を眺める。
「打てそうで、打てないよな」
「おいおい、俺は打ったぜ?」
「けど体勢崩れてたぞ」
「思った以上に球に力があるんだよなぁ、それにスライダーが結構キレる。右打者はインコースに入り込んでくるから、力負けしちまうかもな」
上和の言う通り、ピッチャー三瀬は緩いフォームの割りにパワータイプのピッチングを続けていた。
コントロールは良くないが、その荒れ球と球威が水美打線を惑わせていた。
結局このイニングはこの一点止まりで、リードしながらもチームの雰囲気はぎこちなくなってしまう。「うぉらっ!」
臣川は裏の回を無失点に抑えたが、四球とヒットでピンチを招き、多くの球数を消費してしまった。「う~ん嫌な感じですね~」
選手が口にしなかった言葉を円山は当たり前のように声を出し、周りの選手達に冷めた視線を送られる。
「円山、もっとポジティブな事言えって」
「え、はい?どういう意味ですか?」
二年の外野手木田に指摘され、円山は首を傾げながらもすいませんと声を漏らす。
「っ」
ふと、雄一が視線を向けた先に守備から戻ってきた葵田が見え、彼もまたこちらを見据えてきている事に気がつく。
「意識しやがって」
自分の代わりにライトとして出場している後輩は、多くは語らないが勝ち気である事は分かっている。
雄一は葵田を追い抜かなければならない、分かってはいるが焦らないよう試合の間常に自制するように心がけていたのだ。
「ライバルって奴ですね?」
「ちげぇよ、後気にしてんだから声に出すなっての!」
囁いてきた円山の腕を小突きながら、雄一は再びグラウンドに意識を割く。
来るかも分からない自分の出番、そこに全てを出し切るための準備をするために。
(落ち着け……時間は十分あんだからよ……!)
活躍したい気持ちに逸る身体を抑えながら、流れ行く戦況を見つめるのだった。




