秋 - 10
「まァなんだ、それなりに頑張りましョう」
試合前の円陣で、県工のエースでありキャプテンの三瀬は、気だるげ全開の声色で部員達を鼓舞した。「なんですかその腑抜けた喋り方」
「いやァ、何回休み潰されたかと思ったらイラァとして」
「三瀬が相手を抑えちまうからだろ~」
ケラケラと笑い、選手達の間に和やかな空気が漂う。
「……まァでも、負けに行くのも嫌なんで、出来るだけ抑えるように」
おぉっすという掛け声の後、三瀬は先発投手としてマウンドに向かう。
(あァだるいな、何球投げれば終わるんだか)
先輩の代役で登板して好投した時から全ての試合でピッチャーを任せられた三瀬は、毎回百球以上投げさせられ、正直うんざりしていた。
(打つ方が楽しいってのに、なんでこう)
手に息を吹き付け感覚を確かめてから、ボールを握り締める三瀬。
(あァくそ、二十七球で終わらせるぞくそ)
プレイボールのコールが響き、キャッチャーのサインを凝視する。
(やりたくねェけど、わざと負けるのは嫌だしよォ)
そして投じられた一球目は、バッター鉄山が思わず仰け反るほど厳しいインコースへのストレート。
面倒臭がる本人とは真逆の強気な一球であった。




