秋 - 8
秋の県大会三位決定戦、その日の水美野球部のスタメンには一人、一年生の名が載っていた。
八番ライト・葵田、この秋からベンチ入りになった左打ちの外野手である。
(やっと俺を選んだかよ、監督も頑固過ぎだっつの!)
試合前の外野ノックを受けながら、葵田は心の中で愚痴を漏らす。
「おら葵田、少し流すぞー!」
「おぉす!」
ノック役の先輩旗川が打球をファールライン際へ逃げるように放つ。
葵田は全速力で疾駆し、落球ギリギリのところで腕を伸ばしなんとか追いつく事が出来た。
「ナイスキャッチー!」
旗川の掛け声に手を掲げながら、他の外野陣の列に並んでいく。
その際、葵田は前方に見える他のノック中の外野陣の中にいるチームメイトの一人の後ろ姿を捉え、眉を潜める。
(俺があの人に劣ってるとか、ねぇだろ)
その人物の名は中光雄一、この秋の大会から背番号9をつける事になった先輩である。
夏の大会の際、葵田はスタンドから彼の活躍を見ていた。
だがそれはあくまで夏の大会まで、八月の練習試合では圧倒的に葵田の方が打率も打点も上、守備でも安定感を誇っている。
それでも、監督がレギュラーに選んだのは中光であり、葵田ではなかった。
彼はそれが納得いかなかったのだ。
(今日、差を見せつけてやる)
やっと今大会初のスタメン出場、ここでアピールして、彼との立場を逆転させてみせる。
(本当はピッチャーで四番がしたいけど、目立たないと意味ないしな!)
反骨心に燃える少年は、静かに意気込みながら練習に打ち込む。
全ては自分より能力が下だと信じて疑わない先輩を蹴落とすために。




