秋 - 7
「……どうしたの?急に」
「答えてくれよ」
真剣な質問だと目で訴えかけると、乃村も数度頬を指で掻いた後、口元を僅かに引き締めてから、
「……バッティングフォームは悪くないよ。当たりも強いのが多いしね、ただ」
一度言葉を区切って、乃村は小さくため息をつく。
「強く打つだけで繋げてない、バットコントロールが出来てないから、野手の間にボールが飛ばないんだよ」
「……意識は変えてないつもりなんだが」
「でも、大振りになってるよ。毎打席、九回ツーアウトの場面みたい」
乃村の指摘は、言い得て妙だった。
「……あの時、もっと大きい当たりを打ってれば、タッチアップだって成功したかもしれないのに」
「それ、三塁ランナーの足が遅かったって言いたいの?」
当事者だった乃村は苦笑しながらそう言った後、雄一の眼前に回り込むようにしてやってくる。
「雄一は確かにあの時、打てなかった。試合を終わらせた。でもね、それは夏の事なんだよ? 今は秋、今のチームにとって夏の敗戦は何も関係ない。新チームなんだから、でしょ?」
「ん、んむ」
「やる気を引き継ぐのは良いと思うよ。ただ、後悔をいくら持ち続けても、何も進んだりは出来ない
。重い過去を引きずってたら、いつまでも進めないよ」
乃村が向けてくる眼差しには、雄一を試しているような感情が混じっているように見えた。
過去の失敗に囚われているなら、お前はもう使えないと訴えかけられたのと同じだ。
野球部の一員として、ベンチ入りメンバーとして生き残るためならば、かつての敗北を今のプレーに持ち込むべきではない。
当たり前の事に、自分が活躍出来ないせいで気づく事が出来なかった。
「さすが扇の要ですな」
「真面目に答えたのにそういう反応する?」
「感謝してるんだよ、分かるだろ?」
「調子良すぎ」
乃村だから笑って許してくれると思ったし、乃村だから打ち明ける事が出来た。
不調を脱する、そのためのきっかけが欲しかった。
過去は過去、今のチームに必要なのは今のためのプレー。
(進んでやるよ)
乃村やあの後輩に励まされた事を無駄にせず、見返してやる。
かつてのミスを取り戻したいという自己満足ではなく、今の自身の状況に反骨心を燃やしながら、雄一は乃村の後に続いてバスへと向かうのだった。




