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秋 - 5

「この前の新人戦で、一番になったんですよ?」

 太陽を背に、早希はほんの少し声を上擦らせてそう告白してきた。

「え、そうなのか?」

「といっても自分の組の中で、ですけど」

 とはいえ早希は少しだけ嬉しそうで、言葉の通り自慢げに見えた。

「そりゃ、良かったな」

「はい、少しだけ、進めたかなって思います」

「進めた?」

 はい、ともう一度言って、早希は雄一に向ける瞳をやや震わせる。

「夏の時から、ほんの少しですけど、前進したと思ってます」

「そう、か」

「先輩は、進まないんですか?」

 気のせいか、その時だけ早希の言葉は陰りがあるように聞こえ、雄一はハッとして顔を上げた。

 早希の表情は落ち着いてはいたが、先程より鋭い目つきをしているように見えた。

「っ、キツい事言ってくれるな」

「励ますのは簡単ですけど、先輩は行動で示してくれたので。私も結果で何かを感じて貰おうかなって」 結果?と首を傾げる雄一は、少し遅れて言葉の意味を理解する。

 夏、三回戦の前日に雄一は早希に対して試合を見に来るように誘った。

 当時は早希は部活の先輩の引退にショックを受けていて、気を紛らわそうと咄嗟に言ったのだが、彼女はちゃんと観戦に来ていたらしい。

「先輩のプレーと私の悩みは何も関係ない、でも確実に私は感じるものがありました。だから感謝してます」

 そう言うと早希は雄一の手からたこ焼きの入ったトレイを取り上げて、代わりに持っていたフランクフルト入りのパッケージを手渡し数歩離れていく。

「私でも進めたんです、大丈夫ですよ、多分」

「多分かよ」

「はい、適当な言葉は嫌いなので」

 そう言い残して、早希は立ち去っていった。

「励ましで、良いんだよな?」

 一人残され、彼女の言葉を頭の中で思い返す。

 そういや夏の頃は早希が思い悩んでいたなと思い出し、立場が逆転している事に苦笑する。

「はぁ……行くか」

 一つ息をついて、雄一は乃村達の元へ戻るべく立ち上がって歩き出す。

 悩んでいる暇などない、進まなければ。

 分かっている反面、気持ちだけで打撃の技術が上がればと恨めしく思いながら、雄一は足を進めるのだった。


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