秋 - 2
時は遡って約二ヶ月、夏の大会四回戦、水美野球部は優勝候補の一つ、常有館と対戦した。
試合は初回から動く、先発の石中は先頭バッターに四球を選ばれると、犠打で得点圏にランナーを背負い、ツーアウト後に相手の四番バッターと対峙する。
「四番・信重は大会屈指の好打者や、無理して勝負せんでええ」
そう前日の打ち合わせで監督から指示され、石中と乃村のバッテリーはアウトコース中心のピッチングでスリーボールワンストライクとなり、歩かせようと外へスローボールを選んだ。
「おしっ、釣られた!」
ベンチで誰かがそう声を漏らした通り、左打者信重はボール球に手を出してしまい、打球は詰まりながらレフト方向へ。
打ち取った、水美の誰もがそう思ったが、打球は意外に伸び、そのままレフトポール際まで向かっていく。
「麦根ー!」
石中が叫ぶものの、麦根は背中をこちらに向けてるだけで捕球体勢には入らない。
理由は簡単だ、打球がグラウンドに落ちて来なかったからだ。
「ホームランだ!」
客席からそんな歓声があがり、バッター信重はゆっくりとした足取りでダイヤモンドを回る。
「うお~マジかよ」
上和が思わず溜め息をつき、他の部員達も言葉を失う。
それでもまだ初回、石中は後続を絶ち切って反撃を待つ。
水美も相手エース内屋の前に中々連打が繋がらず、ヒットは打者一巡するまでに稲田と沼山の連打による一点のみに留まった。
「んなっ、」
そして相手四番信重の二打席目、石中の投じたボールは再びスタンドに飛び込む事となった。
「うお~、マジか~……」
今度は石中も思わず苦笑するほどの、完璧な当たりだった。
ボロボロに打ちこまれている訳ではなく、完全に打線が抑え込まれているのでもない。
ただ、とにかく彼等の背中が遠かった。
そんな調子で試合は進んで九回、途中から出場していた雄一はワンアウト一塁三塁の場面で打席が回ってきた。
スコアは五対七、連打が出れば追いつけない点差だが、繋がなければ届かない点差でもある。
「打てー中光!」
「お前の得意な場面やぞー!」
「よく見れば打てるよ、雄一!」
ベンチや塁上の乃村が声援を送る中、雄一は相手ピッチャー内屋の投球内容を思い出す。
(こいつはチェンジアップでタイミングを外してくる。狙いはストレート一本、繋ぐなら絞る……!)
サウスポーの内屋に対して右打者の自分なら、投じた球の軌道を読む事も可能な筈だ、雄一はそう自信を呼び覚ましてバットを構えるのだった。




