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夏 - 43

「フェアー!」

 一塁塁審のコールに水美のベンチがさらに沸き立つ。

 代打中光の同点タイムリーの直後、八番バッターの麦根が前山の内に寄って甘くなた真っ直ぐを強引に引っ張ってライト前に運び、三塁ランナーの広岡がホームに帰り、あっという間に水美が勝ち越しとなった。

 たまらず安喜ベンチは伝令を送り、内野陣はマウンドに集結する。

「まだ七回、一点ぐらい大丈夫だから、とにかくあとワンナウト取ろうぜ!」

「あぁ……ごめんな、意地になって力が入った」

 伝令の上村の励ましにも謝ってしまうほど、前山は落胆の色を隠せていなかった。

「あんなんラッキーヒットだっての」

「そそ、気にすんなッテー!」

 それをファースト入井とセカンド白地が明るく笑いながら慰める。

「すぐ追い付く、だから今は次のバッターに集中な」

「……そう、だよな」

 キャッチャー岩井に諭され、小さく頷く前山。

(こんな悔しいのは、初めてかもしれない)

 今まで試合に勝つ事を考えて投げ、打者の事を気にしてはいなかった。

 淡々と球を投じ、相手バッターを凡退させる。それが野球の才に恵まれた自分の役目だと、前山は何度も言い聞かせて試合に臨んでいた。

 だが同点タイムリーを許した勝負の時だけ、前山は相手のバッターを意識していた。

 以前打たれた事があるから、ファールで粘られたから、他の打者の時よりも投げる時に力が入っていたかもしれない。

 空振り狙いのスライダーが、力任せになった分甘く入ってしまった。

「……っ」

 セットポジションの体勢をとる最中、二塁に進んだランナー、自分から同点タイムリーを打った選手を一瞥する前山。

 その少年の顔にはチームが勝ち越したからといって油断も浮かれている様子もなく、こちらの一挙手一投足、安喜ナインのプレーを注視して、進塁の機会をひたすらに狙っていた。

(っ、最初から相手をもっと見ておけば良かった、か)

 ただのバッターの一人ではない、あいつはミート力が高い、最初からもっと警戒していれば、打たれなかったかもしれない。

 遅い後悔に苛まれながら、しかしまだ終わってないと歯を食い縛って自身を奮い立たせながら、前山は次のバッターを抑えるのだった。

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