夏 - 40
(良く見るな、本当に)
際どいコースに投じたつもりでもバッターの中光に上手く見極められ、前山は僅かに口元を歪めた。
忘れる訳もない、練習試合で対戦した際、代打で出てきて最初に点を奪われた相手だ。
飛び抜けてパワーや技術があるとは思わない、ただしつこくボールに食らいついてきたという印象であった。
(肩肘張りすぎじゃないか、君さ)
前山は根っからの野球少年ではない、才能と結果が伴った事でたまたまエースに成り上がっただけだ。
水美の連中は高校生活の大半を野球に捧げるガチな連中ばかりなんだと勝手に思っていて、そんな奴等に打ち勝って仲間を喜ばせる事だけを考えて今まで投げてきた。
バッターは鬼気迫る表情でこちらを睨み付け、揺らぐ事なく前山の球を待ち受けている。
(打ちたいんだろ、ならとっとと振ってきな)
針の穴を通すような制球で投じるも、相手は寸前のところで見逃したりファールにしたりして粘ってくる。
早く打ち取られろ、そんな思いが高まっていき、自然と振り切る腕の勢いが増していく。
打たせた取るピッチングが、球威で押しきるスタイルへと変わっていくのが自分でも分かったが、抑えてやるという気持ちは止められない。
バッターは追い詰められながら、食ってかかるような視線を飛ばしてきている。
怖じ気づいてなどいない、隙あらば打ってやると待ち構えており、気を抜けば呑み込まれそうだ。
「必死になりすぎでしょ、お互い」
熱せられた息を吐きながら呟いて、前山は投球モーションに入る。
その時の彼は歓声も仲間の激も聞こえておらず、バッター中光を打ち取る事だけに意識が向けられていた。
(真っ直ぐ狙い、分かってんだよ)
先程、スライダーに空振りをしたのを見て分かった、このバッターはストレートに狙いを絞っている。
前山はキャッチャーのサインにスライダーが出るまで首を横に振り、投球モーションに移る。
(空振りさせる……!)
そして意識を右腕に注ぎ込み、力の全てを指先に集中させる。
投じられた一球は右打者の手前で逃げるように横へ変化するスライダー、狙い通りの外角へ向かっていく。
バッター中光は反応してバットをコンパクトに振るってきた。
空を切る、投げ終えて腕を伸ばしきった前山は確信したが。
「なっ、」
直後、耳に響く金属音に思わず頬を引きつらせ、ボールがこちらめがけて飛んでくるのを目の当たりにするのであった。




