夏 - 39
(外れる!)
外角へ今度はストレート、手が出かけたもののなんとか見極めてボールとなる。
どっと吹き出る冷や汗を袖で拭い、息を整えてから次の球を待つ。
もう一度アウトコース低めにストレート、今度はなんとか食らいついてファールにしてみせた。
次はインへの直球で仕留めに来るが、雄一も強引に引っ張ってファールに逃れる。
「球見えてるぞー!」
「粘れ粘れ!」
「打ってくれー!」
打球の行方を見送る度に聞こえてくる自分への声援、あまりに多く大きいそれらに鼓膜が震え続け、嫌がおうにも気持ちが高ぶっていく。
冷静さを失わないよう、一球毎に間をおいて意識を整える。
時間を目一杯使い、前山の動きを逐一確認する。
(ストレートとスライダー、さっきは見分けがつかなかった。けど……)
ベンチで見ていた時、言葉では形容出来ないものの何か投球モーションに違いあったように思えた。
何か、断定出来ない時点で分析しれてはいないのだが、万全で臨める打席などまずありえない。
今持ちうる技術と知識で、出来る限りの勝負をする。
代打要員である以上それは覚悟していた。
(探れ、探れ、違いを見つけろ……!)
打つために必要なものならなんでも良い、結果が出るならどんな形でも良い。
なんとしても、打つ。
(それぐらいしか、俺にやれる事はないんだ……!)
極限まで高まった緊張に支配されそうになりながらも、雄一は意識の全てを目の前の投手に注ぐのだった。




