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春 - 10

 土曜日、水美高校野球部は県内で中堅校として知られる玲芯高校を招いて練習試合を行っていた。

 雄一は8番ライトで先発し、三回の裏、先頭打者として第一打席を迎えた。相手投手の二宮はここまで被安打一本無失点と好投している。

「しゃす」

 相手捕手と審判に礼をしてバットを構える雄一。

『普段から手を抜いても活躍出来るんですか、野球って』

「っ」

 先日言葉を交わした女子生徒の事が脳裏を過ぎり、いつもよりバットを握る力が強くなる。

(気にしなくていいっつの、あんな奴の言うこと)

 忘れようと思う程頭に彼女の言葉がこびりついて、静かに苛々を募らせる雄一。

 そうしているうちにピッチャーの二宮が投球動作に入った。腕を斜め上の角度まで上げた控えめのスリークォーターから放たれた初球はストレート、変化せずに一直線に雄一の内角へと向かっていく。

「っ」

 腕を曲げて打つには体に近過ぎ、しかし死球にはならない絶妙なコースのその球を雄一は見逃し、一つストライクを奪われた。

(130後半、コントロールは良いが、打てないレベルじゃない)

 自分なりに分析する間に、二宮は既に二球目を投げるモーションに入ろうとしていた。

 バットを構え直し、繰り出されたボールを待つ。

(っ、遅い)

 今度は雄一から見て外角へ大きく変化するカーブ、打つという選択肢もあったが、際どいコースだったために手を出しはしなかった。

「ストライクツーッ!」

 しかし判定はストライク。

 眉をひそめる雄一だが、向かいのバッターボックス近くの変化球に慌てて手を出したとしてもミート出来た自信はない、と気持ちを切り替える。

(思ったより曲がるっていうか…ってもう投げるのかよ!)

 ボールを受け取ってから十秒足らずでキャッチャーのサインに頷き、すぐさま腕を動かし始める二宮。

 打つための試行錯誤をする間もなく迫る三球目は直球、またしても外角の際どいコースに投じられたそれの二球目の緩いカーブとの速度の差に焦った雄一はほぼ反射的にバットを当てに行ってしまう。

 見逃し三振にだけはなるまいという思いからの判断だったが、力のないスイングに当てられた打球に威力はなく、ふわりと数秒浮いてから一塁手のグローブに難なく収まった。

「あっ」

 という間に終わった第一打席に、雄一は悔しさよりも呆気なさを感じて、無言でベンチに戻る。

 『三回見逃しても一回打てば良いですもんね』

「チッ」

 ふいにまたしてもあの女子生徒の言葉が頭に蘇り、苛立ちが無意識に表情に現れた。


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