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夏 - 33

 前山は足元のボールを器用に腕を畳んで打ち返し、打球はレフト線ギリギリを、しかし切れずにフェンスに向かって伸びていく。

「やばっ」

 思わず雄一が危惧の声を漏らし、他の部員も打球の行方を固唾を飲んで見守る。

 だが打球はフェンス手前で失速し、麦根が走りながらなんとか落ちてきたボールをキャッチしてスリーアウトとなり、事なきを得た。

「よ―し反撃行くぞぉ!」

 ピンチを乗り切って盛り上がる水美ベンチ、戻ってきたナインのうち、先頭バッターの稲田が速やかにバットを引き抜き、周りの部員達は彼を激励する。

「稲田、ちゃんと球見て打てぇよ」

「期待し過ぎたら気負っちまいますよ~」

 監督に苦笑いしてから、稲田はベンチの部員を見回して、

「お前らも、俺が打っている間に攻略法ぐらい見つけろよ~?」

 そう言い残してから、いつも通り軽い足取りで打席に向かっていった。

(クセ……)

 前山は明らかに疲れが出始めていた、立ち姿こそ涼しげだが、球数の多さや投球間の時間の伸びからなんとなく見てとれた。

 それでも投球フォームは綺麗で、ストレートと変化球の時の違いは中々見抜けない。

(せめてタイミング合わせないとな)

 ボールを捉えられなければヒットは生まれない、初動して投げてホームベースを通過するまでのタイミングにスイングを合わせなければ、ボールは前にヒットゾーンへは飛んでくれない。

「雄一」

 と、プロテクトを外し終えた乃村が、自身のバットを取りに行く途中こちらを向かないまま声をかけてきた。

「なんだよ」

「繋ぐからね、打ってよ?」

「簡単に言うよな、お前」

「だって分かってるから、逆転勝ちするならこの回、雄一が打つんだって」

 笑いながら、しかしふざけてはいない真剣な声色で乃村は背を向けたまま言い切った。

 期待してくれてるのか、プレッシャーをかけてきているのか、乃村がこの場面で声をかけてきた意味を雄一は彼なりに解釈してから、返事を選ぶ。

「打てる場面になればな」

「はは」

 乃村は軽く笑ってから離れていき、それを見送りながら雄一はマウンドの方へ視線を向ける。

 とにかく前山の投球を頭に焼き付け、時がくれば打つ。

 それだけを考え、雄一は息をするのも忘れて集中力を高めようとする。

(回ってこい……!)

 回ってきたら打ってやる、願いとも命令ともとれる思いを抱きながら、試合を見守るのだった。


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