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夏 - 31

 先頭バッター甲田こうだにストレートをライト前に運ばれ、石中はランナーを背負ってしまった。

 次の打者の送りバントで得点圏にランナーを進められ、巧打者の三番三吉に打順が回ってくる。

(やっば)

 一失点目と似たような展開に、石中は慎重な投球を試みるが、そのせいか球が外に逃げ、結局四球を与えてしまった。

 たまらず内野陣がマウンドに集まり、伝令に旗川が送られる。

「球を捉えられてはいませんよ、一人ずつ打者に集中していきましょう!」

「気負うなよイシ、まだ焦る時間じゃないぞ」

 続いて畑川が励ますように石中の背中を数回手で叩く。

「いや~そのつもりはないんだけどね、球が浮いちまって」

 迎えるバッターは四番入井、得点圏に強いのは昨日散々データを教えこまれたので分かっている。

(分かってはいるんだけどな~)

 一回戦に比べれば全然石中の状態は良い、だが一点の重みはあの時とは比べ物にならなかった。

 何より今日唯一点を奪われた打者だ、不用意な投球は許されない。

「ん、おい。あれ見ろよ」

 と、畑川が自軍ベンチの方を指差し、他のメンバーも視線をそちらに向けた。

 ベンチの傍では、まだ水美は守りだというのに控えの臣川が捕手の播磨を相手にブルペンで投球練習を始めていた。

「おいおい、まだコールされてないだろう」

「あいつ、勝手になにやってんだ」

 畑川と宮原が苦笑しながら声を漏らす。

「そういやさっき、中光もベンチから出て素振りしてたよな~。審判に注意されかけてたぜ?」

 慌ててベンチへ下がっていった雄一の姿は、この回が始まる直前のナインの目に映っていたようで、石中は思い出して含み笑いしそうになる。

「……気持ち、入ってる」

 続いて沼山がボソリと呟き、ナインは臣川の投球練習を改めて確認する。

「……臣川が出てくるのは勝ち越した後、雄一が出てくるのは、チャンスの場面だと僕は思ってるんですけどね」

 乃村の言葉に、石中は確かになと小さく答えて、グラブの中のボールを見つめて、

「それはこの回、俺がゼロで抑えるのが前提、だろ?」

 誰にともなく質問してみせた。

 それは期待されている事を分かっているから、やり遂げて当然と思われているから、気合いを入れるために、言い聞かせるようにわざと石中はそんな事を口にしていた。

「抑えない、のか」

 キャプテンの広岡が怪訝そうに尋ねてきて、石中はまた軽く小さく笑ってから、

「仕方ないから抑えるしかないよね~、これでも背番号一番だし」

 心強いエースの言葉に仲間はこれ以上声をかける事なかった。

 石中は大丈夫、抑えてくれる、そんな思いが彼等から滲み出ていて、そこに不安というものは存在していなかった。

「あいつはお前が打たれると思ってるみたいだろうけどな?」

「ははっ、そりゃ腹立つな。絶対抑えてやらねえと」

 畑川の言葉に対する石中の返しに仲間もからからと笑った後、それぞれが持ち場に向けて散っていく。「ふぅ~……さて、正念場って奴だね~」

 腹を括るように呟き、石中はロジンバックを手に取る。

 見据えるのは相手のバッター、エースの彼が抑えるべき相手だった。

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