夏 - 29
「ストラックアウト!」
主審の声が響く度、チームメイトと応援団の歓声が聞こえてくる。
六回に入っても前山の投球は素晴らしいもので、彼自身今大会で一番と言っていい程であった。
(出来すぎでしょ)
特に気負って試合に望んだつもりはなかった、ただ練習試合で負けた相手という事で、仲間がやり返してやろうとやる気に満ちていて、前山もそれに応えようと試合に臨んだ。
ワンアウト後、相手の一番青山に真っ直ぐをライト前へ運ばれるも、前山に焦りはない。
「次次~!」
「もっと打たせても良いぞ~!」
チームメイトから威勢の良い掛け声を聞けば、自分達が有利な状況にあり、自信が揺らぐ事なく次の勝負に挑もうと思える。
(リベンジぐらい、させてやらないとエースじゃないよな)
勝てると思えるようになってから日々強まる、負けたくない気持ち。
今までは格下と戦ってきたが、今日の相手は強豪の一つ、ここで勝ってこそ、皆の期待に応えられる。
前山は迷いなく腕を降り渾身の真っ直ぐを繰り出すと、二番宮原をゲッツーに仕留めてこの回も失点ゼロで切り抜けた。
「おっしゃ!」
珍しく雄叫びを上げ、仲間とハイタッチを交わしながらベンチへ戻っていく前山。
(投げきってみせるさ、勝つまで……!)
自分が抑えて、試合に勝つ。
負けた時の仲間の、悔しさを堪えたような顔で慰めてくるのを見るのが苦しくて、自分が頑張れば彼等にこんな表情をさせずに済むのならば、そうしてやろうと思って練習してきた。
野球への熱意が強いかどうかなど関係ない、仲間に喜んでもらうために、試合に勝ってみせる。
だから前山は今日のピッチング内容に満足していた。
例え球数が既に百十球を越えていたとしても、前山は全く気にせず、集中力を高めていた。




