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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Une Poupée Cassée

作者: 理沙黑

 ―――ようこそ、お嬢さん! ここは人間と人形が一緒に暮らす夢と希望の街だ! ここにいる間は私達が君の安全を守るからね!


 その街は観光客交わる、海辺の綺麗な街だった。宝石箱のようにキラキラとしたおもちゃ売り場が所狭しと並ぶ。街を歩く兵隊は誰もがブリキで出来ていて、にこやかな笑顔を見せている。

 かかる音楽は軽快に。

 いたるところでワルツを踊る人形達、ピンクの花びらが舞う。

「やぁ、お嬢ちゃん。ここは初めてかい? 色んなところを見て行くといい」

 顔を覗かせたぬいぐるみ屋の店主がそう話しかける。

 顔の縫い目が目立つ、可愛らしいクマのぬいぐるみだった。

「うん! ここへは用事で………多分人違いだと思うんだけどね」

 私はそう言い、店主の店を覗く。店いっぱいのぬいぐるみに目を奪われる。

「用事とは? お嬢ちゃん、仕事なのかい?」

 店主は首を傾げながら呟く。

「そう、だから三日だけここにいるのよ。それまでよろしくね」

 私はぬいぐるみ店主に笑いかけ、店を去った。

 街は綺麗なおもちゃ箱、そんな風に思った。

 だが、最近この街周辺で人が行方不明になっているという。本部からそう告げられ私はここに来た。真っ黒の仕事の制服は脱ぎ、観光客に交じり。

 慣れない広がったロングスカート。街行く人の目を引くのか、よく声をかけられた。もう少し抑えた方が良かったかもしれない。

 行方不明になった人達の調査。それが仕事内容であり、ここにいた用事。

 私は地面を蹴った。



 この街は兵隊というとおもちゃのブリキ兵隊のようだ。

「あのぉ……」

 大きなメインストリートで子供をあやすブリキの兵隊。兵隊は赤いコートを羽織り、腰には黒い短剣を下げる。声を掛けると彼はパッと笑顔を見せた。彼の笑顔は弾けるというか、花が咲くというにふさわしいものだった。

「お嬢さん、僕に何か用かな? なんでも聞いてよ。街のみんなの安全を守るのが僕達の仕事だから!」

 そう言って駆け寄る。私は曖昧に笑顔を見せた。

「あのぉ……ここら辺で人がいなくなっていると聞いて来たのですが」

 兵隊に歩み寄られ、警戒心を出してしまった。彼はその台詞を口の中で一噛み、二噛みしてから答えた。

「お嬢さんの知り合いがいなくなってしまったの?僕には分からないなぁ」

 そう言って考える体制をとる彼。私が悪かったなと思い、立ち去ろうとした時彼は言った。

「それより、お嬢さん。一緒に踊らないかな。ほら!音楽が流れてきたでしょう?」

 パッと笑顔を見せ、手を取ってしまう。あっと思った時にはもう遅かった。私の身体はワルツの輪に入り、足が自然と動く。

「あれ? 私……踊れないのに」

「ここは魔法の街だから。ほら! 僕が君をリードしてあげる」

 彼は私の手を取り、クルクルと回る。私はそのまま夜まで踊り尽くした。



 二日目。

「いったぁ……」

 全身の痛みで目が覚めた。筋肉痛だ。

「あんなに踊ったからな……」

 腰に手を当て立ち上がり、窓を開ける。もう既に音楽が流れワルツを踊る人影。

 よく見ると全員人形だった。

 だが、見ていて飽きない。音楽と彼らの踊りを見ていると自然と身体の痛みが消えて行った。

「今日も調査に行きますか!」

 ドアノブを捻り、外に出る。今日は青い制服を身に纏う兵隊達で朝から行進をしていた。

  ダッダッと規則正しい行進。私はそれを横目に街の人達に聞き込みをすることにした。

 昼頃になるとだいぶ人通りが多くなってきた。

 私は入った茶店で紅茶を啜る。好きなはずの紅茶がその時は不味く感じた。

「はぁぁぁぁ………」

 深い深い溜息ののち、また紅茶を飲む。既に冷めていた。

 何人もの人に聞いてみたが、誰の答えも寸分違わず『知らない』の一言だった。

「やっぱり勘違いだよなぁ……」

 先週本部に届いた、

『助けてくれ! 人がどんどんいなくなって行く! 今、俺もアイツラに追われて……ウワァッ!』

 ここで緊急通信は切れた。

 誰なのか、アイツラとは?

「アイツラ……てことは一人じゃないんだよね。多数のグループということかしら」

 ならばこの街で騒がれていなければおかしい。何故なのか。

 明日、異常がなければ私は本部に戻り調査を取るとこになっている。それまで何かなければいいが……

「お嬢さん、お困りかな?」

 不意に声をかけてきたのは昨日の兵隊だった。今日は青い制服。

「うん……昨日はありがとう。楽しかったわ」

 それはどうも。兵隊は笑顔で答える。

「ちょっとね……なかなか用事が終われなくって」

 私は彼に曖昧に笑う。彼は少しも嫌そうに見えなかった。

「ならば僕に相談して見なよ、きっと答えてみせる」

 彼は自分の胸を叩き、胸を張った。少しこの彼に安心していた私は彼に、

「そうだね……一人より二人で考えた方がいいよね」

 と言って全て彼に話したのだ。



 フンフンと一言も漏らさず聞いてくれた彼はじっくりと腕まくりして、私の相談を考えてくれている。私は追加の注文をして、彼の答えを待った。

 僕にはなんとも言えないけど。

 そう前置きして彼は真剣な目をした。

「お嬢さんはこの街でなにか人が行方不明になる自体が起きているっていうことだよね、きっとそれは『ザンムルング』という集団グループだよ」

 彼はそう言った。

 ザンムルングとは一体なんなのか……

 彼は続けた。

「人間を捕まえてコレクションとして閉じ込める、悪質な犯罪グループでね……僕達兵隊も苦戦してるんだ」

 腕組みしながら彼は言う。

「かれらはどこにいるの!?」

 私が聞くと彼は、

「二十三番通りの地下街かな。そこは人通りがまばらで夜は真っ暗なんだ。だからかれらは夜にそこで……」

 彼の台詞を遮って、私はバタンと机を叩いた。

「そこなのね! じゃあ私はここで!」

 慌てて出てこようとする私の腕を掴み彼は叫んだ。

「危険だよ! せめて僕の仕事がない明日はどうかな? 僕を連れて行ってよ」

 彼は私の腕を強く握る。絶対離すものか、と叫んでいるようだった。

 私はその手を優しく振りほどく。

「ごめんね、これは私の仕事だから。聞いてくれてありがとう」

 私が彼にお辞儀をすると、彼はそっと手を離した。

「そうか……」

 そう呟くと、彼は手を振った。振り返らない私にどこからか声が聞こえた。


 ―――お嬢さんの助けになれたかな? またなにかあったら声をかけてくれ! 困っている者を助けるのも私達の仕事なんだ!



 三日目。

 昨日の夜、一晩中起きていた。私は寝不足のあまり倒れそうになりつつ、ベッドから起き上がり窓を開けた。

 今日何かなければこの街から帰っていく。ふっと溜息をついた。

 音楽が部屋に流れ込む。今日は緑の制服を身に纏う兵隊。日によって違うようだ。一日目は赤、二日目は青、今日は緑。

 明日、私はこの街にいない。そう思うとなにか寂しいものを感じた。

 昨日、私は彼が言った通り二十三番通りにいた。

 だが、何もなかった。

 あるのは街の外れであるが故、不気味な雰囲気漂うあの場所で恐怖に耐えていただけだ。

 真っ暗な闇の中で不意に聴こえる壊れた人形の絶叫。突然鳴る音が飛んだオルゴール。

 腐敗した景色だった。まさしく連続誘拐犯が潜むアジトに相応しい。

 いや、連続ではないか。聞いたのはあの通信のみだし、街に異変はない。やっぱり気のせいなのかもしれない。

 今日は街をぶらぶらしてまたあの場所に行こう。宿屋を出払って大きなバックを持った。

 気軽にショッピングモールに入る。するとどこから出てきたのか、あの兵隊が声をかけてきた。

「お嬢さん、大丈夫だったかい? あの場所は怖かっただろう?」

 彼は緑の制服を身に纏い、今日も笑顔を絶やさない。

「うん、出てこなかった。今日何もなかったら帰るつもり。三日間ありがとう」

 そう言って深々と頭を下げる。

「そうか……寂しくなるね。故郷に帰るのかい? それとも―――お前ニ仕事ヲ押シツケル場所ニ戻ルノカ」

 声が低く地響いた。私は驚いて顔を上げる。彼の顔は変わらず穏やかな笑顔だった。

「どうかしたかな?」

 ニッコリと笑う彼の顔。私は苦笑いした。今は誰の声だったのかと。

「あ……うん……」

「じゃあ、お嬢さん。僕と踊ろうよ。今日が最後だと思ってさ!」

 彼は無邪気に笑みを返す。私の手は為す術もない。

 その時どこから聞こえた声は私の耳に確かに届いた。


 ―――お嬢さんは故郷が懐かしいのだね……でもこの夢の街でずっと遊んでいれば悲しいことも忘れられるよ! さぁ涙を拭いて!



 不気味な雰囲気漂う、二十三番通り。地下街への階段が雨の対策もなくそのまま吹きさらしとなっている。

「ゴホッ……」

 変な咳が出てしまう。結局、夜まで踊り尽くしてしまい、足が既に痛い。

「こりゃ帰ったら湿布貼らなくちゃ」

 私は足をさすりながらへへっと苦笑いした。

 目を凝らしても人影は見えない。今回の調査は彼に聞いたことを本部まで届けるだけでいいと言われている。

 これで最後だ、あとは上司のベテラン調査員に託すのだ。

「真っ暗ね……」

 昨日もこんな感じだった。変わらない闇の中。二匹のコウモリが飛んで空に消えた。

 あと一時間したら帰ろう、そう思って時計を見た時だった。

「お嬢さん? お嬢さんでしょ。僕だよまだこの街にいたんだね」

 見ると闇からぬっと出てくる人影。私は一瞬「きゃっ!」と悲鳴を上げた。

 目を恐る恐る開けると……彼だった。

「ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだよ。ごめんね」

 彼は紫色の制服を身に纏い、いつものように黒い短剣を腰に携えている。手には小さなライトを持っていた。

「ここで何を……あぁ、調査か。ご苦労様。どうだい、成果はあった?」

 彼はニコニコと聞いてくる。私は彼が尋ねたとおり素直に答えた。

「ううん。全然。やっぱり人違いだったのかなー、これが終わったら帰ろうと思っているの」

 私は彼に笑いかける。彼の顔は暗闇で一瞬見えなかった。

「そうなのか……オマエヲココカライキテカエスワケニハイカナイ」

「!」

 私は目を見開いた。

「今のは…………」

「ん? なんのことかな」

 彼の顔はニッコリと笑っていた。だがその顔は暗闇で見るには不気味過ぎた。背筋が凍った。

「いや……私一人で大丈夫だよ? だからもう」

 彼にそう言った時、通りの向こうで叫び声が聞こえた。

「アイツラだっ!! アイツラが来る!あの〝オモチャの兵隊達〟が来る!」

 叫び声は「あぁ」という悲鳴と共についえた。

「ど……どういうこと……」

 私は恐る恐る彼の顔を見る。彼はニコニコと笑顔だった。

 だが手には、

「お嬢さん、こういうことだよ」

 彼の姿はみるみる変わり、短剣だったはずの剣は人が何人も斬れるほどの巨大なクレイモアだった。


 ―――やァお嬢さン、こんナ夜更けにどこヘ行くのかナ? 生きテ街から逃げようナんて悪い子ダ。邪魔ナ両足ハ切り落とさナくてはネ。



 目が覚めた時、私はただ踊っていた。足が千切れるまで、筋肉が動かなくなるまで。朝も昼も晩も、永遠に。

 今日も耳に聴こえる音楽に身体は自然に動き始める。

 休むことないこの身体。両足が木の義足である限り決して休むことはない。

 この身が壊れてあの不気味な二十三番通りに棄てられるまで、私の身体は踊り続ける。

 新しい真っ白なワンピースを着て、街へ。

「ワルツはいかがでしょうか?」

 勝手に自分の口がそう動く。


書いた後、しばらくしてからこの小説には「大人」がいないことに気づいた。

それが作者として一番『ゾクッ』としたところでもあります。

友人と話していた内容を小説にしました。

なので、一日クオリティだったり、誤字があったりするかもしれません。

ジャンルはファンタジーホラーを狙ったつもりです。最後に『ぞくっ』とするものを。

果たしてこの街の人形達は何なのか?

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