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その五

 さて、と俺はいつもとは違う部室に向かう。久しぶりの仕事といったところだ。

「おじゃまします」

 勢いよく扉を開ける。

「ゲロウ部の皆さんこんにちは。御機嫌はいかがかな?」

 中には数人のゲロウ部が椅子に座っている。しかし、誰一人驚いた様子はない。それもそうだ。俺たちは仕事をする前に向こうに宣告しなければいけない。扉が今度は勢いよく閉まる。どうやら俺を閉じ込めたつもりらしい。

「いやはや、ようこそ、あらすじ部の下っ端さん。でも、君に仕事はさせないよ」

 そういって前に出てきたのはゲロウ部部長の鵜野だった。顔には余裕がにじんでいる。

 秋原が出てくると同時に、俺に嘲笑が贈られてきた。

「君みたいな下っ端が来るなんて思ってなかったよ」

 これでも副部長なんだがな。まあいつも梓鴉に追い掛け回されて、更には後輩にもいじられ、なんて状況を見られたらそう思われても仕方ないか。少し悲しくなってきた。俺が落ち込んでいると、鵜野が少し後ろに下がった。

「女子だったら手荒な真似は出来ないんだが、男子なら問題ないな」

「嘘つけよ。女子にも汚い手を使って、部に引き込んでいたくせによ」

 俺が核心を突いた一言言った途端、鵜野は少し顔をゆがめる。

「やはり、その事で来たのか。まあいい。お前はここで起きたことも俺たちがしたことも語れないようになるのだからな」

 鵜野は俺に向かって、指を向ける。

「おいおい、人に指を向けんなよ」

「こいつをやっちまえ」

 合図とともに奥の方に隠れていた部員が出てきて、俺を囲んだ。何だか悪の組織みたいだな。瞬間、静かに俺を囲む体勢をとっていた部員たちが殴りかかってくる。

「よっと」

 俺は体をひねりながら、初撃を避けて肘鉄を後頭部に決める。その勢いでやや上に体を跳ね上げて。二人ほど肩で跳ね飛ばした。続けて、俺を挟むように殴ってきた二人の頭をつかんで、互いにぶつけ、向かってきた次の三人へと突き飛ばした。その三人は直撃を受けて後ろに倒れる。最後に二人ほど鳩尾をけり上げて戦闘不能にさせた。

「な」

 たった一人に十人がやられたのを見て、向こうは呆気にとられている。残っている他の数人はどうやら戦う気が消失したようだ。

「なんなんだ。お前は」

 狼狽える鵜野を横目に答えた。

「あらすじ部副部長三鷹清斗だ」

「くッ」

 狼狽えていた鵜野だが、再び余裕の顔を取り戻す。

「ははは。そういえばお前は生徒会の二年と仲が良かったようだが」

 そのまま携帯電話を取り出した。

「この件からは手を引いてもらおうか」

「人質と言いたいところだが、まあ心配ないかな」

「何だと」

「ほら、電話かけてみろよ」

 俺は挑発気味に秋原を促した。秋原は怪訝な顔をして電話を掛ける。

「おい、人質の声を聞かせてやれ」

『――――が、無理だ!ば、ば、化物が!あああああああああ』

「どうした。おい!」

「あらすじ部の特権その一『圧倒的暴力』」

「なんだと」

「いやいや、そちらの動きが読めてたからな。とりあえず梓鴉を矢原に変身させといた」

「――な」

 そして、今度は向こうが余裕を取り戻す前にこちらから仕掛ける。

「そういえば、そちらの幹部的な奴らはどうしたんだ」

「奴らは今日、用事だと言ってたぞ」

「そっちが脅迫まがいなので新入生を入れていたからな。どうしようかと考えていたんだよ。

噂とかだったら困るな、とか」

「何が言いたい」

「でも、そちらは案の定写真とかデータとして、いや、実物として残るもので脅迫してくれたからな」

「それとこれとが――」

「――助かったよ。実物があれば対処しやすい」

 俺は携帯電話のダイヤルを押して、鵜野に投げる。

「ほらよ、聞いてみな」

「?」

『――もしもしせい君ですか?向こうの幹部からデータとか何やら回収完了しましたわ。いえ、この場合は買収かしら?』

「何だとッ!」

『あら向こうのかたでしたの?では、ごきげんよう』

「あらすじ部の特権その二『頂上的な財政力』」

「くそ」

「で、そろそろ時間かな」

 ピンポーンと放送のチャイムが流れる。

『皆元気?あらすじ部の金糸雀響よ。これからちょっと面白いもの流すから耳をしっかりかっぽじってから聞いてよね』

 放送が砂嵐みたいに鳴いた後、放送が始まった。

『「おい、お前新入生の○○だよな」

「なんですか」

「お前、ゲロウ部に入れよ。最近資金が不足してて新入生入れないとやってらんねえんだよ」

「いやですよ」

「ほう。これを見ても言えるのか」

「な、なんであんたらがこんな写真を」

「お前の恥ずかしいとこ他の奴らに見せられないよな」

「くッ」

「さて、君。ゲロウ部に入らないかい?」

「……」

「入るよね。ほらコレ入部届」

「……はい」

「ありがとう。じゃあ、今度部室で会おうか」』

 再び砂嵐のような音が聞こえて、今度は響の声に切り替わる。

『皆、聞いたかしら。これが最近部活の新入部員が著しく減っていた理由よ。てなわけで、我があらすじ部がこれから裁くからよろしく!』

 瞬間、歓声じみた音が響き渡る。金糸雀響のファンの野郎どもだろう。まあ、これだけ賛成の声があれば、後に生徒会とか教員側から非難を受けることもない。

「あらすじ部の特権その三『絶対的なカリスマ』」

 俺はそう言って、鵜野に近寄る。鵜野はひっ、と情けない声を上げて後ろずさる。

「これより、草紙の三権の一つ「司法」ことあらすじ部が判決を下させてもらう。被告は盗撮を行い、プライバシーを侵害した上、脅迫により新入生の自由を奪った。よって有罪とみなしそれに見合った罰を受けてもらう。

 一に本日より三か月、部活動を停止とする事

 二に新入部員はすべて仮入部状態とし、入退部の自由を認める事

 三に部活停止期間は校内の清掃活動に従事する事

 ――以上をこの度の問題の解決とする」

 再び響の声が放送機ごしに聞こえる。

『はい。賛成の人。返事頂戴』

 いやいや、俺の声は聞こえてねえよ。放送してねえし。

「「「いええええええええええええええええええええええええええええすっ!!!!」」」

「聞こえてねえのに賛成すんなよ!」

『ふふふ、清斗。あんたの声が放送されてないとでも思っていたの?背中の方触ってごらん』

 言われるままに背中を探るように触ってみる。すると、肩甲骨の下くらいに無機質な手ごたえを感じた。指で挟んでそれを外すと、

「盗聴器ッ⁉」

『集中しすぎると周りの音が聞こえなくなるのが悪い癖ね』

「……くッ」

 俺は膝から崩れ落ちる。目の前では鵜野も崩れ落ちていた。そして、校内に放送の声が響き渡った。

『これにてあらすじ部の仕事終了ッ!!』


 その後、部室で俺は仕事のまとめをしていた。大体の部員は帰ってしまって、今部室に残っているのは俺と響だけだった。

「今日はお疲れ様」

 目の前に缶ジュースが差し出される。

「サンキュー」

 目の前の缶ジュースを受け取るとひとまず手を止めた。

「ゲロウ部もそうだけど、あらすじ部も創部一年か」

「部長だから感慨にふけってのか」

「別にいいでしょ。ていうか創ったの清斗でしょ」

「それはそうだった」

 缶ジュースを開けて、少し飲む。

「元々は響が入学式の日に絡まれていたからだろう」

 俺がこの学校に入学したとき、金糸雀響が三年生に絡まれていた。それを助けたのが俺だった。とはいえ、それが初対面という訳ではなかった。小学校までは一緒の学校にいたのだ。いわゆる幼馴染というやつで、家も近所だったのだが響が全寮制の女子中学校に進学したためそれ以来会ってなかったのだ。そして、入学式で再び出会った。

「あの時、響が『不正するなんて許せないじゃない』とか言ったのがそもそもだよな」

 昔から正義感が強いところはあった。そして、入学式の日に絡まれていたのは響ではなく、絡んでいったのが響だったと言う事だ。

「んで、それならと思って、あらすじ部を俺と響で創って。

『あらゆる物事に筋を通して不正を罰する部活』だったけか。略してあらすじ部。これ考えたのも響だったよな」

「そうそう、懐かしいわね。創ってすぐに生徒会と対立して、三年のグループ相手に大立ち回りして。楽しかったわね」

「いや、あれは正直つぶれるんじゃないかとひやひやしたぞ」

 ちなみにだが、俺は部活では響の事を部長と呼んで、敬語を使うようにしている。いや、響が変なプライドを張って、そういう事になった。こんな制度が出来たのは部員が増え始めてからだったな。そして、響の性格ゆえ部を創ってすぐに生徒会と大喧嘩した。というか部話創る時点で生徒会が怪訝な顔をしていたから何か起こると思ったが、予想通り。こんな部活認めるか!みたいな運動が起きた。で、その騒乱の隙を狙って三年のグループが動き出したものだから、もうてんやわんやだった。

「でも、三年のアレが最初の仕事で、生徒会が俺らを認める原因になったのか」

「ふふふ、生徒会ざまあ」

「おいおい」

 俺は一息ついた。生徒会には認められたものの、いまだに生徒会とは犬猿の仲だ。その仲の悪さとあらすじ部の暴走的能力、さっき俺が言った三特権がある故に生徒からは草紙の三権分立なんて大層な名前で呼ばれている。生徒会が立法、教員が行政、あらすじ部が司法といったところだろう。

「そういえばさ」

 ふと俺は思いついた事をそのまま口にしてみる。

「普通に考えれば写真で弱みを握って脅迫したってこんな被害は出ないよな」

 そもそも写真で取られるような痴態がある奴は早々はいないはずだ。

「今回の被害者は三十人だっけ?」

「そうね。確か部員を集めた時にそれくらいはいたわね」

 さっきというのは、あの仕事が終わった時に部員をとりあえず集めて、事情と処分を再説明いた時の事だ。

「多いよな」

 流石は変人集団の学校。変な趣味を持ってるやつは五万といるのだろう。と、響が俺のまとめていたノートを覗き込んできた。

「ところでゲロウ部って何?」

「何も知らずにいたのかよ」

「仕方ないじゃない。清斗が教えてくれたのが先週なんだから」

「まあそうだったな」

 俺はノートに書いてあるゲロウ部の詳細説明に目を向ける。そこで気づく。俺も興味なかったからほとんど調べてなかった。

「あれだ。みんなで世界征服の計画を練りましょうって部活だ」

「ああ、道理でさっき集まった時部長っぽいやつが『くくく、今回は後れを取ったが次は邪魔をさせんぞ』みたいなこと言ってたんだ」

 本当に悪役らしい台詞吐くんだな。ふと、そこで自分たちの行動を思い返してみた。

その一『暴力行使』

その二『財力行使』

その三『権力行使』

俺らの方が悪役っぽくないか?だが、それが俺たちだから変えようがない。それにしても三か月後が面倒だな。

「ねえ、清斗。今日はこの辺にして帰りましょう」

「そうだな」

「先行ってるから」

 俺は部室を一通り片付け、電気を切って、響を追いかけた。


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