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不穏、そして対応

この隊に入って一ヶ月が過ぎた。

この頃には俺も随分とこの隊に馴染めてきていた。

この一ヶ月、方陣や円陣といった守りの陣形を徹底的に覚えさせられ、緊急の事態に対し、陣形をスムーズに変える訓練、伍による連携の訓練など、様々な戦闘訓練を行った。

また、夜は各伍ごとの実戦演習も行った。


この一日の生活は決して楽なものではなっかったが、忙しい分充実しており、存外悪いものでもなく、あっという間に一ヶ月が過ぎていった。


一ヶ月も伍のメンバーと共にに生活しているとだんだんと誰がどのような性格なのかもよくわかってきた。ワグナー伍長は十数年間の戦場経験と叩き上げの確固とした剣の実力を持った人だ。

モーラムはこの部隊の中でも指折りの怪力であり、また人付き合いが良く人情味に溢れている。

ホルズはモーラムとは対照的に物静かな人だが仲間への思い遣りを持った人物である。

ウィーカーはとても気さくな奴である。

伍のメンバーは各々個性的ではあるが、皆、良い人達であり、新人の俺をよく気にかけてくれた。







入隊からちょうど一ヵ月後の日の昼、俺は伍の隊員らとともに食事をとっていた。

今日の食時は芋と野菜にわずかな肉が入った汁物と小さなパンであった。


「おい、お前の肉大きいぞ!俺によこせ!!」


「嫌ですよ。ウィーカーさんは小さくても二つ入ってるじゃないですか。俺は一つですよ。早く手をのけてくださいよ」


汁物の肉を巡って俺はウィーカーと争う。特に食事に文句が有るわけではなく、単にウィーカーは俺とじゃれあいたいだけなのだ。年が近いせいか、隊に入ってすぐに俺とウィーカーは打ち解けた。


年配のホルズ、モーラム、ワグナーは少し口元を緩め、面白そうにそれを見ている。


「あんまりはしゃぐなよ、お前ら」


そして、口論が激しくなった後のワグナーの注意はもはや定番となっていた。


結局、この騒動は俺が一気に肉をのみこむことで片がついた。


その時のウィーカーは大層悔しがっていたが、俺はなるべく気にしないようにした。


パンを齧りながら、外の風景を眺めていると、不意に馬の蹄の音が聞こえた。


目を凝らすと、タラントの旗を掲げた騎兵が一騎、こちらに向かってくる。


(何だ?・・・・あれは、伝言兵?)


それは将軍への報告を行う伝言兵だった。


伝言兵は猛スピードでつっきり、将軍の陣へと入っていった。


(いや、違う、・・・・これはただの報告じゃない。

普通ならここまで陣の奥に来たら徐行するはずだ。何かあったのか?)


伝言兵の異常に俺は少し不安になり、齧っていたパンを一気に飲み込む。

すると将軍の陣からいつもとは比べ物にならないほどの怒声が聞こえた。


「何ーーー!?

ミストラルが攻めてきただと!?」その一言に俺を含め、皆が唖然とした。


(ミストラルが・・・・タラントに・・・・)


持っていた汁のお椀が地面に落ちる。

ガシャン、と大きな音を立てて割れたお椀はまるで俺たちの心と、そしてこれから起こる『何か』を代弁しているかのようであった。








タラント首都、ピースバーグ。


ミストラル帝国がタラントに侵攻してきた情報がここピースバーグにも伝わり、王城の政務の間では大臣らが騒がしくざわめいていた。


「バカな、なぜミストラルが!?」


「皇国とは交戦状態だったのでは?」


「なぜ、今頃!?」

大臣らは口々に自らの疑問を言い合う。


それほど、ミストラルがタラントに攻め込んできたという事実は衝撃的だった。


ミストラルは大陸統一を掲げている国だったが、同じく大陸統一を掲げているティラノポリス皇国と隣接しており、長年皇国との熾烈な領土争いを繰り広げていた。また、ミリタリアとも隣接しており、皇国の危険性も合わさって、実質的にタラントを攻めることはできなかったのである。


なぜ、この時期に急にミストラルが攻めてきたのか。


大臣らが議論しあっているのはそのことばかりだった。


「皆静まれ!!」一際大きな声が辺りを黙らせる。皆がその声に静まり返った。

そして一人の男が真ん中へと歩き出した。


タラントの政務の間は円形に政務を担当する大臣の席があり、その真ん中に発言の席がある。


その発言の席へと歩み出す参謀長官、フォルドに大臣らが皆、視線を向ける。


フォルドは視線が集まったのを確認すると、静かに話し始めた。


「まず、届いた報告を正確に伝える。

最初にミストラル帝国が我が国に侵攻してきた。

その数およそ六万。

敵は三方に分かれて攻めてきている。

すでにミーパム地方は時間の問題となっている。

非常に衝撃的な事実だが、あのミーパム城がわずか二日で墜ちた。そしておそらく敵はフィリピス地方、カドニアス地方、オーレグ地方へと進むだろう」



この報告に皆が驚愕した。


パーミム城は北部防衛拠点として作られた守備城であり、たとえ万の大軍が攻めてきても一ヶ月はもつと考えられていた城だった。


しかし、それがわずか二日で墜ちたのだ。


「今、我が軍は突然の奇襲に不意をつかれ、浮き足立っている。

パーミム城が墜ちたのも恐らくはそのせいだと思われる。

だが、敵は冷静に対処すれば十分迎撃できる数だ。」


ここでフォルドはゆっくりと息をはく。


大臣らは皆、フォルドの次の言葉を息をころして待っていた。



「まず、カドニアス地方にはホフマン将軍に向かってもらっている。将軍には三万もの兵を与えた。

必ずや敵を追い払うだろう。オーレグ地方にも同様に三万の兵をボイズン将軍に向かわせた。

今、一番危険なのはフィリピス地方だ。

フィリピス地方は境界が山に囲まれており、軍勢を送るにはカドニアス地方を経由して送らなければならない。

恐らくは一週間はかかるだろう」


しだいに辺りが再びざわめき始めた。


フォルドは変わらぬ口調で話を続ける。


「現在、フィリピス地方にいるのは演習中のロゴウ将軍の兵わずか四千あまりだ。

フィリピス地方は資源が豊富で、かつ、山を下れば都へと一気に近づくことができるため、戦略的にもかなり重要な場所だ。

敵はおそらく二万ほど。兵力差はおよそ五倍」


(五倍!?)


大臣らは驚きのあまり、呆然とした。


フォルドはチラリと玉座に座る国王を見た。



齢六十を過ぎ、四十年間この国を治めてきた国王は今までの報告にも眉一つ動かさずに静かに聞いていた。



皆が静まり、フォルドの報告も終わりをつげたのをみて、ようやく国王は口を開いた。


「それで、フォルドよ、何か対策はあるのか?」

国王の言葉にフォルドはやんわりとした態度で対応する。


「はい、フィリピスは自然に恵まれた分、大軍の進行には不向きな場所です。

また、足場も悪く進撃には苦労をようするでしょう。

ここを守るロゴウ将軍は歴戦の将軍です。おそらく将軍はまっとも守りやすい場所にて援軍を待って、敵の侵攻にもちこたえるでしょう。

フィリピスに送る分の援軍をオーレグ、カドニアスに回し、左右の戦を早めに決着をつけてフィリピス地方の援護に向かわせます。

少し賭の部分はありますが・・・・・・万が一に備え、一万の軍を都近くのベルン地方へと配置しておきます。

これが今うてる最善の手です」


「うむ。フォルドの言う通りにしよう。

それと報告は逐一伝えるように」


フォルドはその言葉を聞くと、後ろへと下がった。


発言席から離れ、フォルドは席に戻る間、この急な侵攻の背後について考えていた。


(しかし、なぜ今更帝国が・・・・・・。この侵攻には必ず国家間の陰謀がある・・・・・・。

おそらくは皇国か帝国が一枚かんでいる。

これを探っておかなければな)


席に戻ったフォルドは腕を組み、目を一層鋭くして思索に耽っていた。

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