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入隊

都を出て辺境の地を訪れたライ



ライはそこで新たな仲間と出会う

チュン、チュン、と小鳥のさえずりが聞こえる。

周りを見渡すとまだ誰も起きていなかった。


(・・・・・・体がだるいなあ)


暫くぼうっとしていると急に馬鹿でかい声が鳴り響いた。


「おら、全員起きろ!!! ようやく着いたぞ!!」


大地を震わすかのような声に皆が飛び起きた。


これを聞くのは今日で五回目だ。寝ている時にこれをやられるのはたまったもんじゃない。


今日は早く起きて正解だった。






ファブル先生との別れを終えた後、俺たちは都を出て外に置かれた馬車で将軍の部隊が待機しているフィリピス地方へと向かった。 フィリピス地方はピースバーグから北西の位置にある地域で豊かな自然環境と豊富な資源で有名な地域だ。



都から旅立って五日目、俺はついにフィリピス地方へと足を運んだ。










馬車から降りると、辺り一面の原っぱに将軍の兵が整列していた。


皆、右手に槍を、左手には盾を持ち、隊列は乱れたところが全くなかった。


これだけでも将軍の兵士は精兵であることがわかる。


「前に話した通り、たった今新人兵を連れてきた。 補充予定の伍長は前に出ろ!!

これから、補充した六十名の配置を決める」



すると、将軍は一人ずつ俺たちの名前と担当する伍長の名前を言い始めた。



その間、伍長達はそれぞれ、俺たちを品定めするように見つめる。


「ライ、お前はワグナーの下へと配属する」


すると、俺の上官となるワグナーという伍長が前に出てきた。


右頬に刀傷がある、無精髭を生やした強面の中年の男だった。


ワグナーはしばらく俺を見つめると、


「よろしくな、ボウズ」


と言って、頬をゆるめ俺に握手を求めてきた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」



俺もそれに素直に握手を返す。


握った手は異様にゴツゴツしており、所々に傷跡が見られた。


ワグナーという男は姿や雰囲気から何度も戦場を駆け巡ってきた人物のように感じられた。

しばらくし、将軍は全員の名前を言い終えると、


「よし、これで全員の配置を終えたな。 俺は、少し野暮用がある。

俺がいない間にお前たちは伍のメンバーと仲を深めておけ」


と言い、副官と思しき男とどこかへ行ってしまった。


俺はぼんやりとその後ろ姿を見ていると、後ろから不意に肩を叩かれた。

振り返ると、俺の肩を叩いたのはワグナーだった。


「おい、ライと言ったな。 俺について来い!

今から俺の部下を紹介する」


言い終えると親指でついてくるように示し、前へと歩きだした。


言われるままについて行くと、ワグナーは部下と思われる三人を呼び寄せ、離れにきて、全員に座るように言う。俺たちは円を作って座った。


「まずは自己紹介からだ。 ボウズ、軽く自分について言ってみろ」


ワグナーのその言葉に伍の他の三人が俺に視線を集める。


俺は少し緊張し、一回咳をすると


「俺の名前はライです。 少し前にファブル・プロシードを卒業して、都で正式に兵士に任命されてここに来ました。

得意なのは剣術です

ここでは、精一杯頑張らせていただきます」


と、ゆっくりと簡潔に言った。


一昨日練習したおかげで噛まずにはっきりと言い切ることができた。


他のメンバーは、ほう、とか、へえ、と口々に呟いている。

すると、ワグナーは


「まあ、ボウズにしては上出来だ。 じゃあ、他の奴らにも紹介させるか」


と言って、俺の左の男に目を向ける。


「左から進めていくぞ

まずはモーラム、お前からだ!!」


「へいへい、せかさないでくださいよ、伍長。

さて、ライって言ったっけ? 俺の名前はモーラム。 年は31。

メンバーの中では一番の力持ちで、戦では斧を扱っている。

わかんねえことがあったらいつでも聞きな!」

言い終えると、親指を一本立てて、自分の胸に置いた。



モーラムはとても大柄な男で、頭に髪がなく、左耳か、口元にかけて大きな傷があった。



口振りと雰囲気から、どうやら見た目に反して面倒見がよく、明るい人物のようだ。


「よろしくお願いします」俺はぺこりと頭を下げる。


そしてちらりとモーラムを見つめる。


「斧、を扱ってるんですか?」


俺の言葉にモーラムは一瞬きょとんとしたがすぐに俺が何をいいたいかわかったようだ。


「ああ、まあ斧は確かに正規の装備ではないな。だが、おれは配備された槍とか剣よかこいつの方がしっくりくるんだ」


そう言ってモーラムは背中に背負っていた斧をドカリッ、と地面に置いた。


鉄でできたそれは槍よりも随分と太く、所々傷がついていた。


「モーラムに斧を持たせれば戦場では止められんからなあ、上も禁止はしてないし俺らは随分とモーラムに助けられてるよ」


ワグナーの言葉に隊員らもゆっくりと頷いた。


モーラムの紹介が終わると、ワグナーはモーラムの左に座っていた男に目をやった。


その左の男は少し体を動かし、


「ホルズだ。弓を扱っている。・・・・・・よろしく」


と、ボソリと簡潔に言い放った。


ホルズという男はどうやら物静かな人らしい。


口元に濃いちょび髭を生やしているが、顔はこれといって特徴がない、のっぺりとした顔をしている。


モーラムと比べるといささか頼りなさそうに感じた。


最後に俺はホルズの隣にいる人物に目をやる。


その男は俺と目が合うと、にへら、と笑い、口を開く。


「俺の名前はウィーカー。 年は20だ。 武器は主に槍を扱っている。

まあ、仲良くしようぜ」


ウィーカーの髪はこの国には珍しいらしい赤髪だった。


(なんとなく、サイと同じ感じがするな・・・・・・)


雰囲気からそう感じた。

他のメンバーが自己紹介を終えると、ワグナーはゆっくりと立ち上がり、

「最後に、俺はワグナー この伍の伍長だ」


と言って、自分に親指を向ける。


そして、


「これで一通り終わったな。 まずはライ、この伍に入ってきたからには俺達は運命共同体だ。

へまをしねえようにしっかりと訓練しな!

二年後にお前が実戦で戦えるようにびっちりとしごいてやるかな!」と、ワグナーは少しドスをきかせて言った。


その言葉に、俺は少しビクッとした。


すると、ワグナーはニヤリと笑い、


「よし、すぐに演習を始めんぞ!! てめえら、ついてこい!!」


と、大声で立ち上がるように促した。


(もう・・・・・・か)

俺はすっと立ち上がる。

すると、


「ほら、行くぞ! 今日からお前は俺の弟分だ! 俺がなんでも教えてやるからな」


と、ウィーカーからポンと肩を叩かれた。


(俺はなんでこの人の弟分にされたんだ?)



しかし、心なしか嫌な気分にはならなかった。



俺はウィーカーに言われるままついて行く。途中、俺たちよりも早く演習をしている伍の様子を見て、ようやく本物の兵士になったと実感した。



武器を片手に他のメンバーと一緒に歩くことで今までとは全く違う世界が見えてきた気がした。










今までは雲に隠れていた夢は、まだ届く気配はないがようやく姿を見せた。

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