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卒業

ようやく施設での生活は終わりを告げる

暖かい風が吹き始めてきた。



周りは緑が増え、小動物が活動するようになり、暖かい日差しが辺りに降り注ぐ。



それらの環境はまるで、俺達の卒業を祝福しているかのようだった。



ここ、プロシードは12年前の大戦から創立したため、第一期生である俺にとっては初めての卒業式であった。



プロシードの中にある、最も広い講堂に同期生200名とその他の下級生全員が集まっている。


それはとても壮大な風景であった。


生徒の並び方は向こうであらかじめ適当に決められており、俺はちょうど真ん中に位置していた。

周りは初めての卒業式ということで静まり返っている。



待つこと数分、微かな足音をたてながら後ろからファブル先生が歩いてきた。ファブル先生は正装しており、いつもより若々しく見えた。生徒たちを横切り、俺達の前まで歩いてくる。他の教官も大きな荷物を持って、先生に続いてきた。



(そろそろか・・・・・・。)



緊張が高まる。辺りは一層静まり返っている。



「これより、第一回ファブル・プロシードの卒業式を始めます。」



ファブル先生の大きな声により、俺の最初で最後の卒業式が、今、始まった。

(もうそろそろだ・・・・・・、緊張するな。)



生徒一人一人が丁寧な物腰で証書と剣を手に取り帰ってくるのを見て、俺は額に汗が溜まるのを感じた。



プロシードの卒業式では各人が訓練終了の証明書と基本的な武器である剣を受け取ることになっている。



今ちょうど3分の1ほどの生徒が貰い終えた所で、俺は刻一刻と迫り来る順番に緊張が高まっていた。




だんだんと心臓の音が高まる。辺りが静かなためか、俺は余計心臓の音が大きく聞こえた。



(静まれ・・・・・・、静まるんだ。)



不意に聞き覚えのある名前が呼ばれた。



(あれは・・・・・・リーファイ。)


気づくとリーファイは、はい、とはっきりとした声で答え、前へと歩いていった。「ここに修業を終え、卒業したことを認めます」



定型化された言葉と共にファブル先生は証書と刀をリーファイに渡す。その後に隣りの教官から一冊の本を受け取り、またそれを手渡した。




「これは上級兵法書です。兵法学の成績一番は素晴らしいものでした。今後の活躍を期待します」


(随分と様になっているな、リーファイは・・・・・・)




次に呼ばれたのはサイだった。サイはいつもとは違い、堂々とした足取りで近づき、丁寧に受け取る。



サイは槍術トップの記念として受け取った上物の槍を大事に抱え、にやにやとしながら戻っていった。




それからは時間が先ほどとは打ってかわって早く過ぎていった。



「ライ、こちらへ」



すでに緊張はなかった。俺はゆっくりと先生のもとへと歩き出した。



先生から証書と刀を受け取る。




(ここまで長かった。ようやく卒業か・・・・・・)




先生はゆっくりと剣をもう一本、俺に差し出した。その剣は上物で随分と長かった。



「剣術一番おめでとうございます、今後の活躍を期待します」



先生の暖かい言葉に礼をし、ゆっくりと戻った。


最後に主席のリーファイが、今後の意思表示をし終えたところで卒業式は幕を下ろした。








「今日のおまえの姿最高だったぜ!」



荷造りをしながら、サイがとても明るい表情で話しかけた。




「どうも、・・・・・・結構大変だったよ、あれは。前日にかなり練習をしたしな」




リーファイは少し照れていた。




俺たちは荷造りを終えると、出発まで談笑しあっていた。










出発の時間になり、俺たちは集合場所へと集まった。




そこには、俺が拾われた時に乗った馬車があった。



他にも三台あった。



「俺たちはこれから仕官することになるんだな・・・・・・」



唐突にサイが話し始めた。



「ライやリーファイとは違う部隊になるかもしれないな。でも、・・・・・・でもたとえ離れ離れになっても俺たちは友達だ!!これからもずっと・・・・・・」




「サイにしては随分と思い切ったことを言うなあ。俺もそれには同感だ」


「同じく」



そうして俺たちは互いに笑いあった。








時間になり、俺たちは馬車に乗った。俺は隅へと静かに座り、深く考えこんでいた。



これからのことについて。




(ついに士官・・・・・・か、これから兵士になるんだな)



思い出すのは一二年前のあの日のこと。





(帝国はこの一二年間何もしてこなかったわけではない。小規模な争いを起こしていたし、何よりタラントと同様に力を蓄え、侵略の機会をうかがっているはずだ)





手を強く握りしめる。



(今度きたら必ず返り討ちにしてやる!!)



ガタン、という音と共に馬車が動き出した。 向かう先は都、ピースバーグ。



(もしかしたら、俺はようやく動き出したのかもしれない・・・・・・。一二年前に止まった俺の中の歯車が・・・・・・)



この一二年間、気持ちの整理をしていた。



大将軍とはその名の通り、この国の軍事を統帥する権利を得られる職だ。

つまり、俺が総大将となり、俺自身の手で帝国を討てるのだ。



(大将軍になる!!何年かかっても・・・・・・、そして必ず帝国を討つ!!)



今ようやく俺の戦いは幕を開けた。

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