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語らい

「ご苦労だ、お前ら。ちょうど門番も今日で終わりだ。後は別の隊が引き受ける。数日は暇をやる」


報告に来たゴメス百将の声に俺とその他の隊員が頭を下げる。


入れ替わりで今日から門番をする什隊の隊長に挨拶をした後、俺は皆に解散を命じた。


兵舎へと帰るとすぐさま鎧を脱いで薄い服を着込み身だしなみを整える。

途中サイに酒屋に誘われたがにべもなく断るとすぐさま兵舎を出た。


今日も川辺でミナが待っている。


そう思うと心が高ぶった。


今日はどんな話をしようか、俺はそんなことを思いながらミナの待つ川へと走った。














酒の誘いを断ったライがウキウキしながら兵舎を出て行くのを見て、サイは眉をひそめた。


「なんだよ、ライの奴。最近ノリが悪いなあ」


ライの姿が完全に見えなくなるとサイは軽く舌打ちをした。


「いっつもいっつもどこに行くのかねえ、俺らの隊長は」


そんなサイの様子に近くにいたゴルペスも腕を組み疑問を口にする。


そしてちらりと隣にいたナハト、リーズに訪ねた。


「俺は知らんぞ!!」


「私も同様です。一体どこへ向かったのやら・・・・・・」


すると、顔に笑みを浮かべたモーラムがリーズの後ろから現れた。


「なんだ、お前ら、あの様子を見てわからんのか。ライがあんなにウキウキしてる理由はこれだよコレ」


そう言うとモーラムはピンと小指を立てた。


「まっ、まじかよ。・・・・・・いつの間に」


サイは驚きの余り体を傾ける。


他の隊員もライほどではないにしろ愕然とした表情をしていた。


「まあ、俺もなんとなく臭いと感じてたがな。だがまさかあのライがなあ・・・・・・」


そんな皆の様子とは逆にウィーはしみじみといった様子であれこれと語り始める。


「だが、あの野郎・・・・・・帰ったら一発だな」


一通り語り終えたウィーカーはぐっと拳をを握りしめた。


「この戦時の中、若いもんの恋の花が咲くのは結構なことだ。・・・・・・だが、どうにもやるせないな・・・・・・」


モーラムも指をポキポキと鳴らす。


皆も二人の言葉に、うんうん、と頷きながら二人と同様に拳を突き出してライが走った方角を見つめた。










「ごめん、待った?」


「ううん、今来たところ」


待ち合わせの場所に行くとミナは桶を椅子代わりして座っていた。


俺の顔を見るとミナは立ちあがって笑みを見せる。


「じゃあ、行こうよ、ライ」


「ああ」


俺はミナが座っていた桶をミナと一緒に持つ。


そうして川に沿って歩き出した。



俺がミナと合った日から一週間が過ぎた。


あの日からただ水を運んでミナの手伝いをするだけではなく、こうして適当に二人でぶらぶらと辺りを歩くようになった。

散歩の間はミナといろいろな話をした。

好きな食べ物、嫌いな食べ物、楽しかった思い出。


どれもが他愛もない話題ばかりではあるが一緒に話している、そんな行為が俺にとっては楽しかった。



「ねえ、ライって何かなりたいものってある?」

いつものように話しているとミナが唐突に尋ねてきた。


「えっ、なりたいもの?」


「うん、ライが目指してる、叶えたい夢のことだよ」


ミナの笑みに俺はどう言うまいかためらう。


しかし、中途半端な嘘はミナにはつきたくなくて、結局俺はたとえこの楽しい雰囲気を壊すこととなろうとも正直に話すことにした。


「俺はさ、十年ほど前に帝国の侵略にあったんだ。その時に親も、親しかった友達も失った。なにもかもさ・・・・・・」


そして俺はこれまでの経緯を話し、最後に夢を語った。


話している間、ミナは真剣な顔つきで聞いてくれた。


じっと瞳を逸らすことなく俺に注ぎ、話し終えるまでずっと・・・・・・。


「だからさ、俺は大将軍を目指してるんだ。

この国の武官の最上位で、国を自分で守って、いつか帝国をこの手で滅ぼす為に」


ぐっと拳を握りしめる。


一通り話し終えた後、俺とミナの間には僅かな沈黙が流れた。


数秒の後、ミナがそれまで閉ざしていた口を開いた。


「大将軍、か。すごいね、ライは。そんな事を考えて今まで生きてきたんだ」


ミナは優しげな眼差しを俺に向けてくる。


「戦場で何度も戦ってきて、私と同じなのにもう部隊も任されてる。ライならなれるよ。大将軍に」


ミナの言葉は決して軽い気持ちで言っているわけではない。


俺は素直に嬉しかった。


ミナが自分の夢をこうまでも真剣に受け止めてくれて。


「ありがとう。そういえば、ミナは何か夢はあるの?」


するとミナは口元を緩めた。


「たいした夢じゃないよ。ライに比べれば全然」


そう言ってミナは空を見上げた。


澄み切った青い空に白い鳥が一羽、悠々と飛んでいる。


「私は、あの鳥のようになりたい。自由に生きて、それで大陸中を渡り歩いてこの世界の色んな物を見てみたい。

私の知らない色んな物を」


そういってミナは目を細めた。


悲しげな顔だった。


俺は以前ミナから聞いていた。


ミナは一年前の侵攻で両親を失ったことを。


パーミム侵攻の際、この砦の住民は殆どが避難できたのだが、町のお偉いさんだったミナの両親はミナを知人に任せ、最後までミストラルに抵抗したとのこと。


そしてミナは現在はその知人の下で、居候として暮らしている。


そのためミナは縛られてるのだ、この町に。


両親との思い出の場所のこの地。


知人の庇護の下でしか生きられない自分。


「いい夢だな」


俺は微笑みながら答えた。


それにミナは笑顔を見せる。


ミナはきっかけが欲しいんだ。


自分を縛るものが消えるきっかけが。


でも、ミナならそれもいつか訪れるだろう。


俺は再び頬を緩めると、帰ろう、と一言ミナに言った。

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