出会い
パーミムの補強拠点、アイム砦へと移動となったライ。
そこでライは運命の出会いを果たす。
また、そんな中、情勢は新たな局面を迎える
ワグナーの言葉通り数日後、移動の命令が下った。
これは軍全体ではなく、ロゴウ将軍配下で俺の什隊を従えるワルド千人将の移動だった。
パーミム城から数キロ離れた位置にあるアイム砦。
アイム砦は町をぐるっと囲んだ補給拠点という話だった。
俺は隊員らの準備ができるのを確認すると、ワルドに続いてパーミム城を後にした。
アイム砦の中の町は一年前に侵攻を受けたとの話だったが噂通り町全体が荒んだ感じを醸し出していた。
予想よりはやや町の規模は大きかったが所々にしか商店はなく、売っているのは城外で作られたと思われる作物のみのように見える。
侵略により焼けはてたと聞かされた家々は所々その痛ましい傷跡を残していた。
町役場までの行進の間に感じたことだが、恐らくは皆もこの町について俺と同じように感じたことだろう。
役場へ行くとワルド千人将は細かく兵士に指示を出した。
俺の什隊は初日から一週間の間は北口の城門の門番をさせられることとなった。
しかし、俺が数日前にいた所と違いこの地域では紛争は全くといっていいほど起こらないらしく(そもそも国境とは大分離れている)、また、ここを訪ねる人も城外にでる町民のみなので仕事はとても退屈なものだった。
門番は一日中であるので時間ごとに人をわけて北口に置くことにした。
俺はサイ、モーラムと三人で朝の番をする事にした。
しかしただ立っているだけのようなもので随分と暇を持て余す仕事だった。
勤務から四日目となる朝、今日は天気もよく適度に心地良い風も吹いていていつもは辛い門番の任が余り苦に感じなかった。
そこでいつもは交代になったら兵舎で仮眠をとる俺だが城外の外を探索してみようという気になり、昼の番の隊員と交代がてら城外へぶらぶらと歩き出した。
暫く歩くと川があった。
川の水はきれいだった。
俺はなんとなしにその流れに沿って歩いた。
少し歩くと遠くに誰かがいるのに気がついた。
近づいてみるとそれは女の子だった。
自分とそう変わらないくらいの短い黒髪の女の子。
その子は体に不釣り合いなほど大きな桶で水を汲んでいた。
桶はその子にとってもすごく重いらしく、手元がおぼつかなかった。
すると次の瞬間、あっ、という女の子の声とともにその子は持っていた桶を川に流された。
川の流れはちょうどその子から俺の方に向かう向きなので桶は俺の方に流れてくる。
(仕方がない・・・・・・)
俺は見るに見過ごせず、川にぴょんと入ると流れてくる桶を止めた。
桶は俺の上半身程の大きさがありなかなか重かった。
桶をゆっくりと持ち上げて川から出るとそれを見た女の子が慌てて駆け寄ってきた。
「あの、ありがとうございます。助かりました」
「あっ、いや、いいよ。ちょうど暇してたし」
深々と頭を下げる少女に俺は照れくさくなって頭をかきながら返す。
すると、ゆっくりとその子は顔を上げた。
遠くからでは気づかなかったが女の子はくりくりした目が特徴的な可愛い子だった。
上目遣いで見てくるその子に俺は思わず見入ってしまった。
「そんなことないですよ。あのままだったら私は桶を無くしてました。
それにあなたは川に入ってまでそれをとってくれました。普通だったらそんなことしてくれませんよ」
するとその子は俺をじっと見つめた後、ニコッと晴れやかな笑顔を見せた。
「本当にありがとうございます」
「あっ、・・・・・・いや、いいよ。そんなに言わなくても」
俺はその笑顔の眩しさにはっきりと目を合わせることが出来ず、返事もしどろもどろになってしまった。
口も上手く回らずその後何を言えばいいか分からなかった。
すると女の子は俺の持った桶に触って、いいですか、と小さく言った。
俺はとっさに桶を持ち抱えた。
「て、手伝うよ、こんなに重いのに黙って持たせられない。町までは俺が持つよ」
強く言い放った俺に、初めはポカンとしていた少女も次にはそれに感動したかのような表情を見せた。
「えっ、でもそれは悪いですよ」
そんな少女に俺は、いいからいいから、といっめゆっくりと町まで歩いた。
すると少女が俺の隣に並んできた。
「あの、ありがとうございます。最近、パーミム城から来た兵士さんですよね。
お名前はなんというのですか?」
「あっ、と、ライ。えっと君は?」
「ミナっていいます」
そういってまた笑顔を見せたミナに俺は魅入ってしまった。
ドキドキと心臓が早鐘のように鳴り、ミナに聞こえるのではないのかと心配に思ってしまった。
「あっ、つきました」
ミナの言葉に俺はいつの間にか砦の城門に来ていた事に気づいた。
するとミナは俺の手から桶をとった。
「今日はお世話になりました」
頭を下げ、町へ歩こうとするミナに俺は慌ててついていく。
「あの、さ、明日も手伝っていいかな?」
俺のその言葉にミナは目を見開く。
「えっ、あのいいんですか?」
「うん、また手伝いたいんだ」
すると、ミナは初めて見せたときと同じような晴れやかな笑顔をまた見せて頷いてくれた。
また、ミナと会える。
ミナと二人で並んで歩ける、そう思うと俺は心が弾んだ。
『コンッ、コンッ』とドアを叩くノックの音が聞こえるとフォルドは、どうぞ、入るよう催促した。
ドアを開き、現れたのは商人服を纏ったロームだった。
「ローム、なんだ?何かあったのか?」
皇国に送っていたロームが知らせも無く帰ってきたことに、何かあったのだと察しフォルドはロームに詰め寄る。
「はい、つい三日前、ミストラルが皇国に侵攻しました」
「何だと!?して状況は」
「はっ、ミストラルのレイヤー率いる四万が皇国の軍と衝突しています」
すると、フォルドは顎に手をあてしばし黙った。
そして、はっ、と目を見開く。
「すぐさま、ホフマン将軍に五万を与え至急パーミムに向かわせろ、このままではまずい」
フォルドの尋常ではない様子にロームは僅かに遅れながら頷く。
「はっ、しかし、どうしたのですか、一体・・・・・・」
「簡単なことだ。皇国を攻めるのに四万は少ない。もしも後軍がなければそれは陽動。
本当の目的はタラントを攻めること。皇国を足止めしている間にパーミムをとるつもりだ、敵は。」
そこでフォルドは眉を潜めた。
「いや、だが、四万を皇国にぶつけるならそれ程ミストラルは兵をこちらに割けないはず。
となると帝国も軍を出す。それも確実に落とせるほどの大軍を。まずいぞ・・・・・・」
フォルドはぎしり、と歯を鳴らす。
ようやく帝国が本格的に攻めてくる、そしてホフマンの援軍が届く前にパーミムは敵とぶつかるだろう。
後はただ現場のロゴウを信じるしかない、それ以外何も手をうつことが出来ない事にフォルドは歯がゆさを感じた。