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パンドラの箱

ギリシア神話でゼウスが作った人類最初の女性、パンドラ


ゼウスは彼女に罪悪や災難を入れた箱を渡した。

それを後にパンドラの箱と呼ぶようになった

王城の謁見の間。そこへ出頭命令を受けたロゴウ、カフカを出迎えたのは政務担当のフォルドとその他大臣らであった。


「フォルド、久しぶりだな。ところで、今度の招集、一体どのような用件だ?」


ロゴウの不躾な態度に周りの大臣らは眉間にしわを寄せるが、フォルドはそれに少し笑う。


「ふっ、すでに情報が入っていると思うが、現在ミストクラウンがミストラルに侵攻中だ。

現状では我が国に援軍を出す余裕がないのだが、つい先日、ようやく同盟国のコスクから我が国へ援軍が到着した。

そこで我が国もミリタリアへ援軍を出すことにした」


「ということは俺達がその援軍に?」


「ああ、しかし君の兵は疲労困憊であろう。

よって代わりの兵を一万貸す。帰還兵はしばらく養生だ。

お前は明日には一万を率いて出立するように」


フォルドの言葉にロゴウは軽く頭を下げると立ち去ろうとした。

すると、ロゴウの前に王城の警備兵が一人現れた。その警備兵はロゴウを押しのけるとフォルドの前へと出る。


「大変です!王城の前に皇国の使者と名乗る者が三名、王への謁見を求めております」


「何だと!?」


警備兵の言葉に皆がざわめく。ロゴウも口を開けたまま唖然としている。フォルドは兵の言葉に静かに頷いた。


「うむ、わかった。誰か王を呼べ!!

それとロゴウ将軍、ここにてしばし待機してもらえますか?」


フォルドの言葉にロゴウはその意図を読むと強く頷いた。


(一体何だ?・・・・・・この時期に使者ということは・・・・・・まさか!!)


一瞬、フォルドはあることが脳裏に思い浮かぶがそれを全力で否定する。

見ればロゴウやカフカもフォルドと同じように青ざめていた。










入ってきたのは三人の男女だった。

フォルドはそのもの達をゆっくりと見つめた。

一人は旅人風の姿をした長身の男。容姿は端正ではあるがどこか幼さを残しており、おそらくは二十代中盤といったところだろう。

もう一人は白銀の鎧を全身に纏い、顔までもヘルメットで隠しているため性別すらよくわからない。ただ先頭の男よりは随分と身長が低い。

最後は光沢のある金色の髪をもつ女性。容姿も美しく、動きもどこか気品を感じられる。

使者というには組み合わせがあまりにもアンバランスな三人であった。


いつの間にか、自分が女をじっと見つめているのに気づき慌てて目をそらす。こほっ、っと喉を鳴らし王はまだ来ないのかと確認すると、ずるずると赤いマントを引きずり、従者を引き連れてようやく現れた。


齢六十を超える現タラント国王、リカルド・ニー・ウェール。

リカルド王は玉座へと座ると、使者達をそれぞれ見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「それで・・・・・・皇国の使者殿が一体何の用かな」


「はっ、・・・・・・この度はミストラルに侵攻され、また同盟国ミリタリアもミストクラウンに攻められ国内は不穏となっているでしょう。

王の心中もお察しします。

そこで単刀直入に申し上げます。我が皇国はタラント国と同盟を結びたいと思っております」


「どっ・・・・・・同盟!?」


旅人風の男の言葉に辺りがざわめく。


「静まれ!皆の者

・・・・・・それで使者殿、同盟について詳しく教えてくれないか?」



「はっ、・・・・・・状況から考え、ミストクラウン、ミストラルが裏で繋がっているのはもはや明白です。

それに、私の情報ではミストクラウンはすでにミリタリアの首都バーヘルムを包囲しているとのこと。その数、実に二十万」


「「「なっ・・・・・・!!」」」


皆が唖然とした。


(どうゆうことだ・・・・・・そんな情報どこにも・・・・・・もしそれが事実だとしたら、もはやミリタリアは・・・・・・)


フォルドは戦況が予想以上に酷いことに歯軋りをする。


「敵の情報操作により、タラントに伝わるミリタリアの情勢の情報が少ないのは知っていました。それにこの侵攻軍の総大将はハンゲルグです。皆さんご存じの通り、十一年前の大戦の帝国軍総大将を務めた・・・・・・。

私の見立てではミリタリアが堕ちるのは最早時間の問題です。ならば我が国と手を組み、二大帝国に対抗するほかないはず。黙っていれば次に狙われるのはここタラントです」

男の演説に皆静まり返った。

リカルド王は顎に手を置き、暫く考える素振りを見せると静かに口を開いた。


「それで、同盟の内容とは?」


「大まかには互いの軍事協力。

また、同盟国の危機に関しての共同防衛。

駐屯軍の物質の援助などでその他詳細はこの書状に綴っております」


そこまで言うと男は恭しく書状を差し出した。

フォルドはそれを受け取り王へと献上する。



「ふむふむ・・・・・・悪くはないな。・・・・・・フォルド、主も見よ」


王から受け取ったフォルドもそれをじっくりと読む。次は外務官ベニーニ、それから有力官僚数人の手へと渡る。


「皆、何か異論はないか?」


すると、外務官ベニーニが手を挙げた。


「書状に関して一つあります。この駐屯軍への兵舎の新設とありますが、その数は?」


「二万もの兵が収容できる数をお願いします」


「ふむ、他には?」


そこで、静かにフォルドが手を挙げた。

「書状に関しては異論はありません。ただ一つ気がかりが。皇国は我が国と違い、王に権力が集中しているわけではありません。国の各領地を治める貴族達が多数存在しています。

これだけの同盟、向こうで貴族達をまとめ上げ、承認を得るのは容易ではないはず・・・・・・。

その主導となった貴族は誰ですか?」

すると、男は静かに笑った。


「ふっふっ、そのようなことを聞かれるとは思いませんでした。

いいでしょう、その人物はこの私、聖龍騎士団団長ヴァンデミオンです」

その言葉に王を含め、皆が驚愕した。


「使者殿が・・・・・・あのヴァンデミオン殿だと・・・・・・」


(ヴァンデミオン・・・・・・)


フォルドはこの男がヴァンデミオンかと全身をくまなく見つめた。

皇国二大騎士団と謳われる皇国軍最強の聖龍騎士団団長、現皇国最有力貴族、などその名は大陸全土に知れ渡っている大物である。そのような人物が何故使者として・・・・・・。


「それで、そちらの二人は?」


するとヴァンデミオンは後ろを振り向き、二人に合図する。


「私は聖龍騎士団副団長のセスです」


「・・・・・・白熊騎士団団長、ギュスターです」


「ふむ、・・・・・・相分かった。では同盟の話は数度の会議によって決める。ヴァンデミオンら三名は王城の一室にて待機なされよ。

衛兵、使者達を丁重に部屋まで案内するよう」


王のその言葉で三人は静かに退出していった。


(同盟・・・・・・か、随分な代物を持ち込んでくれたな、皇国は。

さて、このパンドラの箱が吉と出るか凶と出るか・・・・・・)


大臣らが次々に退出していく中、フォルドは深く考え込む。

皇国との同盟・・・・・・それはタラントのみならず大陸全土を揺るがす出来事と為るかもしれないことをフォルドは薄々感じていた。










「ライ、着いたぞ。ここが市だ」


「おお・・・・・・」


米屋、肉屋、さらには特産品を取り扱う店など、様々な店が道の左右にぎっしりと並んでいる。

店主は声を張り上げ自分の店の宣伝をしており、様々な人が道に煩雑している。


「なんか・・・・・・凄いな」

「まあ、お前は初めてだろうからな。手始めに何か食うか?」


するとウィーカーは近くの肉屋へと行き、焼いた何かの肉の塊を持ってきた。


「これは羊っていう動物の肉だ。この国の南端でしかとれねんだぜ」


今まで肉といえば犬で極稀に牛の肉を食すのみだったのでどのようなモノが分からず、恐る恐る頬張った。

コクのある、そして独特の味わい。一口食べただけで俺は病みつきになった。

「おいおい、そんながっつくなって」


「いや、これ美味いな!」


食べ終わると唇についた油をペロリと舐める。


「まあ、はまるのも無理ないか・・・・・・貧乏生活の一兵士にとっては」


「そういえばワグナー伍長やモーラムさんはどこに行ったんだ?」


「んーー、大人のお店。まあ、お前にはまだ早いわな。もう何年かしたら連れてってやるよ」


俺のよく分からないといった表情にウィーカーはケラケラと笑った。


「そういえばウィーカーは何で兵士になったんだ?」

「そうだな、俺の家は貧乏農家で俺はその三男坊なんだ。・・・・・・だから口減らしにさ。

おっとこの店寄ろうぜ」

するとウィーカーは少しすさんだ店へと入っていった。上にはアクセサリーと書いてある。


「ここにある石はな、“神秘の石”っていうやつでさ。まあ、色々と御利益があるらしいんだ。

俺、こっちに来たときはいつもここで何か買っていくんだ」


店に並ばれている色とりどりの様々な石を見てウィーカーはうきうきしながら語る。

すると店員らしき中年の男が俺の顔を見て笑顔を見せた。


「お客さん初めてかい?なら、少し安くしとくよ。どれでも好きなもの選んでみて」


俺はその言葉にしばし石を見つめる。


「これはなんですか?」

俺はすぐ近くにあった赤い丸い石を指差す。


「これは親愛の石だね。誰か好きな異性にあげるものだよ」


「女ができたらやればいんじゃない?」


ウィーカーは店員の説明を聞くと軽く笑った。

俺は少し困った顔を作る。簡単に言うが俺は生まれてこのかた同世代の女とはまともに話したことがない。


「ははっ、そうだな。

・・・・・・うーん、これは?」


俺が一番端にある石を指さすと店員は少し苦い顔をする。青紫の角張った四角い石。真ん中には黄色と黒の線が複雑に絡み合った奇妙な図形を描いている。


「おい、それはいくらなんでも悪趣味じゃないか?」


「うーん、それは最近流れ商人からただで譲り受けた石なんだがはっきりいってよく分からない代物なんだ。その商人はなんでも“運命の石”だとかいってたけど、説明もそれだけで胡散臭くて飾るだけ飾って今日捨てようかと思ってた石なんだ。」


店員もウィーカーもあまりいい顔はしなかったがなぜか俺はこの石を見た瞬間、何か大きな力に引き込まれたかのようにこの石から目が離せなくなっていた。

「これ、いくらですか?」




「買うのかい?・・・・・・まあ、お客さんがいいならいいけどね。それとその石はただでいいよ。他にも何か買いたいのはないかい」


その石が店員の言う“運命の石”とやらなら、俺がこれを気に入ったのもまた運命と言えるだろう。

俺はその他にも親愛の石を買った。

店を出るとすぐさま石を腰袋へと入れる。


「なんかありそうだな、この石」


「俺にはなんか不吉な事を起こしそうな気もするがな」


ウィーカーは少し苦笑いをした。

他に何か興味を引く店はないかと辺りを見渡すと、正面から奇妙な二人組が歩いてきた。

一人は全身を白銀の鎧で覆っている。顔もヘルメットで隠しており怪しいことこの上ない。そしてもう一人は明るく輝く金色の髪にややつり目が印象的な女。容姿はかなり整っている。


二人はこの市ではかなり浮いた存在に見えた。

もしかしたらどこかの身分の高い姫とその護衛かもしれない。


俺は暫くその女を見つめていた。その女は何故かウィーカーをじっとみていた。

そして、ちょうどすれ違った瞬間、俺と少し目があった。

だが、女はすぐに目をそらし、静かに遠ざかっていった。


俺は暫くその後ろ姿を見ていると、不意にウィーカーから小突かれた。


「おい、何じっと見てんだよ!もしかしてあの女に惚れたか?」


「いっつ・・・・・・違えーよ、それよりなんでじっとお前を見てたんだろ、あの人」


「案外俺に一目惚れ、だったりして」


「はっはっ、それはないな」


するとウィーカーはむきになって怒った。

そして俺達は互いに笑った。

その後も俺達は暫く店を渡り歩いた。

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