帰還
謎の二人組の動向
そしてライの心境の変化
「戦は終わった。引き上げるぞ、ギュス」
「・・・・・・はっ、・・・・・・姫様」
タラントの追撃軍が撤退したのを確認すると、女は静かに丘を下り始めた。
「レイヤー将軍の武力を知れたのは収穫でしたな」
「ああっ、・・・・・・まさかあれほどとは思わなかった」
女の言葉にギュスターはヘルメットからわずかに伺える目を細める。
「レイヤー将軍・・・・・・我々にとって後々の禍になるでしょう。
それに・・・・・・」
そこでギュスターは会話を止めると女に止まるように手を前に出す。
女もその意図がわかり立ち止まる。
正面に十人程の兵士姿の男たちが高地の影から姿を現した。
「へっへっへっ、そこの二人こんなところで何やってんだ〜」
「おっ、女の方はかなりの上玉だな〜〜。ちょうどいい、俺達と一緒に来てもらおうか。
鎧の方は黙ってればそのまま見逃してやるぜ」
男の薄汚い笑みと嫌らしい物言いに、ギュスターはギリッと歯ぎしりをする。
「ふん、ミストラルの敗残兵が今度は野党を開業するのか。
だがお前らに構っているほどこちらも暇ではない。
命が惜しかったら失せろ!」
ギュスターの言葉に男達は一瞬呆気にとられると互いに目を見つめ合い大勢に笑い出した。
「ばっはっはっ、おい、お前!!自分がどうゆう立場かわかってんのか?俺らは十人!片やそっちは女も入れて二人だ!
死ぬのはそっちだぜ」
にやにやと笑いながら、先頭の隊長らしき男は皆に剣を抜くように言う。
「せっかく俺様がご好意で素直にすれば見逃してやると言ったのに。もう後戻りはできねえぜ。あんたを殺して女もいただく。
野郎ども、やっちまえ!!」
男の言葉に九人がギュスターに向かう。
「死ねえぇぇーー!!」
そのうちの一人がギュスターへと切りかかる。そして次の瞬間、切りかかった男の胴が二つに別れた。
「なっ、なんだ!?」
その光景に男たちが足を止めた。
ギュスターの手には一メートルほどの細い剣が握られていた。
「ばっ、抜刀したのも見えなかったぞ」
「そ、それよりあんな細い剣で大の男を鎧ごと真っ二つに・・・・・・」
恐怖で男たちが固まる。
「おっ、お前ら、何やってる!取り囲め!四方から一斉に攻めろ!!」
「お、おう」
隊長の言葉に男達はギュスターを取り囲む。じりじりと男達が近づき始めるとギュスターはいきなり正面にいた男達に斬り込んだ。四人目が斬られると、男達は皆逃げ出し始めた。
「ひっ、ひーー、これは俺らの手に負えねーー」
「強すぎる、逃げろーーー」
「おっ、おい!!・・・・・・くっ」
その光景に隊長は剣を抜くと、女の方へと走り出した。その太い腕が女を掴もうとした瞬間、男の腕に下から剣が突き刺さった。
男の甲高い悲鳴が辺りに響きわたる。そして、次には男は後方から胸を貫かれた。
「すみません、対応が遅れました」
「いい、しかしとんだ道草だった・・・・・・いくぞ」
女の言葉に、ギュスターは頭を下げると静かに歩き始める。後に残ったのは惨めな五体の死体のみだった。
地を踏む感触が柔らかくなった。五日の行軍でオーレグ平原、そして森を抜けた。そして、半日の行軍でようやくピースバーグが誇る東の大門へとついた。
あの戦の後、俺達は何故か都へと戻ることになった。上からの指令のようだが、詳しくはわからない。
少しの待機の後、大門は開いた。
思えば、都へと入るのはファブル先生に連れてこられた時を含めこれで二度目となる。
白や赤を基調とした街並み。そして計画された建物の配置が生み出す均整のとれた造り。それらが出す美しさは相変わらずだが、俺にはその景観を楽しむだけの心の余裕がなかった。
ロゴウとカフカは俺達をピースバーグのはずれにある兵舎にて待機するように命ずるとどこかへ出かけて行った。
兵舎の部屋は伍全員で一部屋とされており、指定された部屋は割と広く快適であった。
「なあ、ライ、まだホルズのこと思ってんのか?」
ベッドへと横たわると、ウィーカーが俺のベッドに腰掛ける。
「なあ、・・・・・・そこまで思い詰めるのは体に毒だ。
・・・・・・早く気持ちを切り替えた方がいいぞ」
「・・・・・・なんでそんなに・・・・・・」
俺は戦友を失ったというのに、以前と様子が変わらぬ目の前のウィーカーが不思議でならなかった。
隊に入って一か月、ましてや隊のなかでも関わりが浅かったが互いに助け合った仲間だった。
ウィーカーは俺よりも隊での生活は長く、ホルズとも親しかった。
なのに、なぜ・・・・・・。
俺の困惑した表情を見ると、ウィーカーは静かに語りかける。
「別に俺だって悲しいさ。俺も初めて仲間を失った頃はそんなもんだった。
だけどさ・・・・・・何度かそんな経験を積むうち気づいたんだ。
兵士ってのは戦場で死ぬのは覚悟のうちさ。死んだ奴らだって死ぬ覚悟で戦場に出て、戦ってしんだんだ。
だけど死んでいった奴らはこう思うんじゃないかな。『俺は死んだけどせめて仲間には死んでほしくない』って。
そして俺達は生きてる。なら死んだやつの分まで生きることが俺達の死んでいった奴らの手向けになるんじゃないかな。
『お前のおかげで俺はまだ生きてるぜ』ってね」
その時、ホルズが死ぬ間際に言った言葉が俺の脳裏に浮かんだ。
『ライ、逃げろ』
あれは俺に“生きろ”と言っていたんだ。
そしてウィーカーの言葉に、そうかもしれない、と思い始めた。
俺は毛布にくるまる。
「明日・・・・・・気晴らしに都を散歩しようぜ」
ウィーカーの言葉がとても暖かく感じた。
「ありがとう、ウィーカー」
聞こえない程度の小声でぼそりと言う。
少しの間、ホルズのことを忘れられそうだ。
毛布の中で俺はそう思った。
初めての後書きですが、閲覧ありがとうございます
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