フィリピスの攻防 (4)
ロゴウの奇襲によって後方部隊が壊滅したことをボレアが耳にしたのは次の日の朝だった。
「何だと!?後方の部隊が壊滅!?」
「はっ、後方部隊の残存兵五千はただいま本隊と合流するため移動していることです。
そして、・・・・・・モラル副将は戦死なさいました」
その言葉と同時にボレアの体がよろめいた。ボレアは未だにその報告の意味を理解できないといった様子でいた。兵達は皆、固唾を飲んで、ボレアの様子を見守っている。ボレアにとって、モラルは上官と部下を越えた存在であったのは皆が周知のことであった。
「後方部隊が合流次第全軍突撃だ。今度こそロゴウを血祭りにあげてやる」
その言葉にヴィルドが慌てて身を乗り出す。
「お待ち下さい、将軍。それは時期尚早です。
今、敵は士気旺盛、対してこちらはまだ部隊がまとまっておらず、敗戦により士気が下がっております」
「臆したか、ヴィルド!!
今はモラルの仇を討つのみ!!もはや俺の意志は変わらん!!敵は数を減らし、連戦で疲弊しているはずだ。今度こそ大軍で打ち崩してやるわ!!」
ボレアは腰の刀を抜き、一振りした。
(将軍はもはや正気を失っている。全く今の状況がわかっていない・・・・・・)
ヴィルドはボレアの様子に内心あきれ果てた。ボレアの目は真っ直ぐに敵陣を見つめていた。ヴィルドはため息をつく。(しかたない。・・・・・・後は我が軍が敵を打ち崩すことを祈るのみだ)
ヴィルドはボレアに頭を下げると、静かに陣から離れていった。
「敵が来るぞ!皆、臨戦体勢用意!!」
ロゴウ将軍の声が遠くから聞こえた。その言葉に手に持っていた槍を強く握りしめる。
俺の伍は初戦の活躍を認められたのか、中央の二列目に配置された。ウィーカーは、なんで活躍したのに一番やばいところに移されるんだ、とぼやいていたが、部隊が再編された急造の左よりはよっぽど増しだ。
辺りが静まりかえり、風の音だけがする。敵に大きな動きがあった。敵がせわしなく動き、突撃の準備をしている。
俺はゴクリと大きな音をたて、唾を飲み込んだ。
これが最後の戦い、いわば決戦になる。そんな気がした。
後方から将軍の檄が聞こえる。
「皆、良く聞け!!敵はおよそ一万五千、我々は三千五百。
まだ圧倒的な兵力差だが、臆することはない。敵は敗戦続きで士気は下がりきっている。皆が一つとなれば必ず勝てる!!敵の猛攻をくい止めろ!!」
歓声が辺りから湧き上がった。それと同時に向こうから砂埃がたちあがった。敵がこちらに向かってくるのが見える。
頃合いになると、弓兵が迎撃の矢を敵に浴びせた。しかし、敵はその勢いを緩めず、倒れた味方を踏み越え、走ってくる。
程なく弓兵は下がり、俺の前の兵士が柵に近づき、槍を向ける。
そして、砂埃の到来と鈍い金属音と共に、両軍がぶつかり合った。