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フィリピスの攻防 (3)

開戦から三日。


初日の激戦は両軍ともに多大な犠牲を出したため、現在、俺達の軍と敵の軍は互いに睨みをきかせたまま膠着状態となっている。


「うげっ、明日の飯がまずくなっちまうぜ」


頭の潰れた兵士の死体を見た俺の隣りウィーカーが悪態をついた。


俺もその死体を見て吐き気を催し口をおさえる。


上からの命令で俺の伍は陣の外にたまった死体を片づけるよう言われたが死体の片付けはなんとも気味が悪い。


「ぶつくさ言うな、ウィーカー。ライはともかく、お前は初陣でもないだろ」


そばにいたワグナーがたしなめる。


しかし、ワグナーも内心この仕事に不満を持っているようだった。


「何人いますかね、この死体」

ワグナーの隣りのモーラムが尋ねる。


「報告では敵の死傷者はおよそ三千、こちらは五百だらしい。

正面のここは二千はくだらんだろう」


(三千・・・・・・、今日の戦でそんなにも、か)


俺は俯いた。


(これが、戦争・・・・・・)


そして、自分が実際に斬った兵士の事を思い出した。


(あの時はがむしゃらに生きることだけ考えた。だが、本当にいいのか、俺は・・・・・・)


帝国への復讐のためにここまで進んだ。


しかし、いざ人を殺す立場になると自分がやっているのが本当に正しいのか、ライはふとそう思った。


思い出すのは戦場でウィーカーが言った言葉。



そして、脳裏にファブル先生が言った言葉が浮かんだ。


『斬った者は斬られた者の分も生き抜いて夢を達成しなければならない』


(俺は大将軍に、・・・・・・国を守って、いずれは帝国を・・・・・・)


そこで俺ははっと気が付いた。


(そうか、そうだよな)


自分が今やっていることが正しいか間違っているかじゃない。


先生の言った通り自分の夢を信じて戦うしかない。


手が震える。


初めて人を殺した時も震えた。


しかし、俺は耐えるしかない。


敵はこちらに侵略をしにきているのだから。


そして、俺が夢を叶えるために。


しばらくすると手の震えが治まった。




そして俺は静かに深呼吸をする。(振り返るな、目の前のことに集中しろ。俺は信念を持っている。それを実現させるために戦うんだ。国を守るために)


そうして顔を上げると、向こうの敵陣に明かりがついているのに気がついた。


今は深夜で、敵は一度明かりを消したはずだった。


(!?・・・・・・まさか、敵襲!?)


俺は慌てこれをワグナーへと伝えた。


開戦から三日、再び状況が動き出した。









ロゴウ将軍は前線に立ち、静かに敵陣を見ていた。


敵が夜通し明かりをつけるようになって今日で三日目。


兵の中には敵の夜襲を恐れ、夜も眠れない者が相次いで出始めた。日に日に兵達は疲れを見せ、士気が下がりはじめてきているのをロゴウは感じていた。


「篝火作戦・・・・・・か」


ロゴウは、静かに呟いた。


「ええ、敵は我が軍を弱らせた後、一斉攻撃にて潰すつもりでしょう」


隣りにいたカフカはそれに反応する。


「将軍、どうします?」

カフカの問いにロゴウは

「ふっ、決まっておろう。今夜、敵の逆手を取って夜襲を仕掛ける」


と、口角を上げ手をかざす。


「千五百の俺直属の騎馬隊で後方の敵陣に夜襲をかける。

目標は敵後方部隊の指揮官だ!

カフカ、早速騎馬隊の準備を始めろ!!」


カフカは、ハッ、と答え、下がっていった。


暗闇の中、一人になったロゴウはにやりと不敵に笑う。


その表情はまるで一匹の獣のようであった。








月が完全に隠れた暗闇の中、篝火をたてて一層明るくした陣の真ん中でモラルは一人たたずんでいた。


(この調子なら明後日には総攻撃を仕掛けられるな)


モラルはこの戦いでの勝利を確信していた。


モラルは敵の夜襲の危険性を考えてはいたが、疲労困憊した味方の寡兵のみで七千もの、陣形すら把握していない敵陣に突っ込むとは考えづらかったのである。それもロゴウは歴戦の将軍であり、力押しだけで進む将軍ではなかったことも、この判断の正当性を後押しした。そうして、モラルは静かにこの戦の後のことについて考えていた。


すると、突如前方から悲鳴が上がり、前方の明かりが消えた。


(何!?)


モラルは目を大きく見開き何事かと兵士に問い掛ける。


暫くして、兵士が一人、本陣に入ってきた。


「報告!!原因は不明ですが、第一軍、二軍の篝火が一斉に消え、味方が動揺しています」


その報告にモラルは驚く。


そして歯を強く噛み締めた。


「それは間違いなく敵の工作兵の仕業だ。ならば近いうちに夜襲がくるぞ、一軍、二軍の千人将に警戒するよう伝えろ」


モラルの指示に兵士は強く頷くと本陣を出て行った。


しかし、モラルは兵士が去った後も何かが頭の隅に引っかかっていた。


(前方に置いた第一軍、二軍二千の陣の篝火が消えた。これは・・・・・・)


そうして考えていると不意にドッドッドッ、とけたたましい音が聞こえた。


その音をモラルはよく知っていた。


戦場にて聞く騎馬隊が出す馬の足音だ。


「まさか、敵が篝火を消したのは騎馬隊をぎりぎりまで引き付けるためか!」


そう言い放つやいなや、第一軍、二軍の陣から悲鳴が上がった。


「くっ、敵の狙いはここか!親衛隊!!四方を固めろ!!敵の侵入を許すな!!」敵は第二軍にて勢いを失うだろう、モラルはそう思っていた。


そのため、モラルは左右の三軍四軍の二千に第二軍の陣と本陣の守りへとつくよう指示を出した。


しかし、騎馬隊の音は段々と大きくなり、ついには外を守っていた親衛隊の者を吹き飛ばし、本陣へと敵が突入してきた。


敵の余りの速さにモラルは言葉を失った。


そしてモラルは入ってきた真っ黒な服装の、大柄な男を見て息をのんだ。


「お前は・・・・・・ロゴッ」



全てを言い終える前に、ロゴウの一振りによってモラルは頭と胴体を切り離された。


それと同時に周りにいたモラルの親衛隊は背を見せて逃げ出した。



後に残ったのはロゴウとモラルの死体のみであった。

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