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フィリピスの攻防 (2)

前線にて異変



ライと敵兵との交戦が始まる

戦が始まって半時が過ぎた。



今では一列目、二列目の者が倒れ、三列目の者が戦っている。



ガギン、ガギン、という金属音が鳴り響き、頭の中でまた繰り返される。


前方での攻防は激しさを増していた。




(・・・・・・もうそろそろだ)




俺は手に汗を溜め、心を静めていた。



初めての戦の雰囲気に押し潰されそうになる。



今、俺の頭の中では、帝国への復讐への前哨戦などといった考えがいっさい浮かんでいなかった。


頭の中がクリアになり、それは自分でも不思議な気分だった。



じっと前方を見ていると、左から妙な音が聞こえた。



振り返ると、ビュン、と何かが飛んできた。



飛んできたそれはすぐ後ろの六列目の者の頭に突き刺さった。



後ろにいた者は音も無しに倒れた。




「えっ・・・・・・!?」



それが合図だったかのように大量の矢が降ってきた。



それと共に、右隣りのウィーカーが俺に、伏せろ、と言って俺をしゃがませた。



矢は左隣りの男にも数本当たり、俺に倒れてきた。



俺は何が起きたのかわからなかった。



すると、左端の遠くから、バギッ、という音と共に悲鳴が上がった。




「どうやら敵の弓兵が左右から攻撃してるみたいだな」




俺の後ろにいるウィーカーが俺に説明する。




「まだ降ってる。

その男を放すなよ。

今はそいつのおかげで矢を防いでんだからな」




言われて初めて男の死体が俺の上にいるのに気づいた。



左隣りの男の死体が俺達を矢から守っていた。



俺は身を縮めて矢が当たらないよう努めた。



少しすると、急に矢が降らなくなった。




「何だ・・・・・・!?」



ウィーカーは辺りを見渡している。



俺も首を動かして辺りを見ると、遠くで味方の弓兵と敵の弓兵が撃ち合っているのが見えた。




「・・・・・・どうやら味方が防いでくれているみたいです」




俺は死体をどかし、立ち上がる。



すると、馬に乗った男が俺達の近くに来た。




「この五列目の者達はすぐに左端の救援に向かえ!

左端の柵が破られたのだ。

これ以上敵の侵入を許すしてはならない。

我についてこい!!」




俺達は言われるがままについて行った。



左端に来ると、傾いた丸太の柵から続々と敵が侵入してきている。



前にはそれらと戦っている味方の兵がいた。



馬に乗った男は敵を指す。




「全員かかれ!!

敵を討つのだ!!」




その言葉に俺は敵に打ちかかった。




(くっ・・・・・・、やってやる。

俺はやってやる!!)



俺の視界に一人の敵が現れた。




「ウオォォォーー!!」




俺は目一杯勢いをつけて槍を突き出す。



槍はブスリと鈍い音をたてて敵に突き刺さった。



「ぐおっ・・・・・・」




敵は悲鳴を上げた。



しかし、敵は踏みとどまり、俺に刀を突き出してきた。




(・・・・・・!?)




俺はすぐさま持っていた槍を放すと敵の一撃を避け、刀を抜いて敵の喉元を切り裂いた。



返り血が俺の顔に浴びせられる。



敵は、ドスン、と大きな音をたてて倒れた。



俺は敵が動かなくなったのを確認し、手を見ると、血で真っ赤に染まった手が震えているのに気がついた。




(震えが止まらない・・・・・・)




初めて人を殺した。



殺す覚悟はあったはずだが、現実になると、俺は歯をカタカタと鳴らし、立ちすくんでいた。




(俺はこの人の命を奪ったのか・・・・・・)




無我夢中でやったことだが、終わった後はあっけなく、そしてとても心に突き刺さるものだった。



「フォオォォー!!」




大きな声がした。



振り返ると、敵がちょうど俺に向かって刀を振り下ろそうとしていた。



(・・・・・・!!)




「ぐぼっ・・・・・・」




刀が振り下ろされる瞬間、敵に槍が突き刺さった。




俺を助けたのはウィーカーだった。




「ぼーっとするな!!

動かなきゃただの的だぞ!!」




敵にとどめをさすと、ウィーカーは振り返って俺に怒鳴った。




「初めてはそんなもんだ。

だけど、振り返るな!

敵も自分が死ぬのは覚悟の上だ。

敵を殺すのに戸惑うな!

やらなきゃお前がやられるそ゛。

お前の夢はこの程度で挫けるものだったのか?」



その言葉に心を動かされ、俺は立ち上がった。




(そうだ・・・・・・俺は・・・・・・、俺は戦う!

こんなところで立ち止まってるわけにはいかないんだ!!)




そうして、全身に沸々と力が湧き上がってきた。


そして、俺は近くにいる敵に打ちかかった。




「ハアァァァーー!!」



振りかぶって敵を切る。



敵は無言で倒れた。




「くっ・・・・・・」



俺は倒れた男をチラリと見るが、すぐさま辺りを見渡す。



そして今度はウィーカーと打ち合っていた敵を後ろから切りつけた。




「ガッ・・・・・・」




敵は思わぬ攻撃に前のめりに倒れていった。




「助かった」




ウィーカーは短く感謝を言った。



俺はほっとした。



しかし、すぐに後ろから敵の気配がして、振り返ると敵が三人掛かりで俺とウィーカーに打ちかかってきた。




「死ねえぇぇーー!!」



敵はこちらに向かってくる。



俺は刀を低く構えた。



すると、突然、後ろから声がした。




「ライ!伏せてろ!!」




俺はその言葉に従い、しゃがむ。



すると、俺の上を斧が通って、敵三人ともそのまま切り飛ばした。



後ろを振り返るとモーラムがいた。




「お前ら二人だけで戦おうとするな。

俺達も協力する。

もっと俺達を頼りにしろ」




横にはワグナーとホルズも来ていた。



そしてワグナーは前に出る。




「ここから五人で協力して敵を討つぞ!

あいつらを陣の外へ追い出す。

行くぞ!!」




その言葉に、俺達は一斉に敵に打ちかかった。









ロゴウ将軍は静かに左端の前線の動向を見ていた。



左端では侵入した敵が一掃され、破れた柵の手前で兵が敵の侵入を防いでいた。



その中でも一際めざましい活躍をしている伍を、将軍は見ていた。




(あの伍・・・・・・、いい働きをするな)




ワグナーというベテランの伍長を筆頭に伍の面々が奮闘していた。




(下の者たちの中にもあのように強烈な光を放つ者共がいるということは素晴らしいことだ)




しばしの間将軍はその伍の様子を見ていた。



すると、前方と後方で歓声が起きた。




「報告!!

敵は撤退する模様」




戦が始まって三時間。



敵は退却を始めた。




「警戒を怠るな、また攻めてくるやもしれん」




そう言って伝言兵を下がらせる。




(初戦は勝利・・・・・・か)



将軍は撤退していく敵兵を眺めた。



「厳しい戦いになるな」



敵兵が見えなくなったのを確認すると、将軍は重い足取りで本陣へと戻っていった。

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