プロローグ
すべてはここから始まった
風が吹いてきた。
春には不釣り合いな冷たい風だ。それらは弱りきった俺の体全身に容赦なく突き刺ささってくる。
(ここは・・・・・・どこだ?
ここは・・・・・・一体・・・・・・)
家だった物はすべて焼け落ち、廃墟と化している。辺りはいくつもの死体が転がり、腐敗臭が鼻を襲う。
俺は静まり返った村を一人、ふらふらと歩いていた。
隣国のミストクラウン帝国がここタラントへ侵略してきたのはつい一週間ほど前だった。国境からかなり離れた所に位置する俺の村は帝国の予想をはるかに上回る侵攻の早さに対応できなかった。
俺の村は為すすべもなく壊滅した。
俺は自分がなぜ生き残れたのかよくわからない・・・・・・
帝国の騎馬隊が村を蹂躙するのを見た。
帝国軍による一方的な虐殺。
それは、あまりにも悲惨な光景だった。
俺は隣にいた母さんとその光景を見ていた。
不思議なことにその後何が起こったか全く思い出せなかった。
気づくと、母さんが死体となって俺を庇うかのように俺の上に覆い被さっていた。
そして震える手で母さんを抱き起こし、辺りを見渡すと、目に映ったのは廃墟と化した村の光景だった・・・・・・。
意識が朦朧としてくる。
不意に腹から『キュルル』と甲高い音が鳴った。
(腹、減ったな)
思えば、ここ三日間何も口にしていない。
しばらく歩いていると、俺は何かにつまづいたようで、弱りきった俺の体は静かに地面へと傾いていった。
しかし、いつまで経っても俺が地面に倒れることはなかった。
気づくと俺は誰かにしっかりと抱きかかえられていた。
上を向くと俺の目には、年配の、優しそうな顔立ちの男が映っていた。
「辛かったでしょう。
ですが、もう・・・・・・、もう大丈夫です」
しっかりと抱き締められる。その行為は冷え切った俺の体を徐々に暖めていった。
(暖かい・・・・・・)
その温もりが俺の心を温めていく。
その心地よさに、俺はしばらくそのままでいた。
おじさんは俺を抱き上げると、
「気をしっかりと持ってください。これからあなたに新しい居場所を与えます」
とっ、眩しい笑顔を見せた。
おじさんの腕はとても大きく、そして暖かかった・・・・・・。
俺を抱きかかえどこかへと連れて行く際にわかったことだが、俺を拾ってくれた人はファブルさんといい、正規兵候補訓練施設ファブル・プロシードといわれる施設の管理人だった。
しばらくすると、広い草原についた。
そこには大型の馬車と、俺と同じように拾われたと思われる子ども達がたくさんいた。
おじさんが言うにはこれで俺をその施設とやらへと送るらしい。
馬車は大型のテントを内蔵しており、テントの中は窓がなく、入ると薄暗かった。
俺は馬車の中で一人うずくまっていた。
程なく馬車が出発した。
子どもの中にはむせび泣く者が何人もいた。
しかし俺はこのとき、なぜか母さんが死んだことをすでに過去と認識していた。
あまりに突然なことに感覚が麻痺しているのかもしれない・・・・・・。
馬車の車輪が鳴らす連続的な音を聞きながら、俺はこの戦争に耐え難い怒りを覚えていた。
そして攻めてきた帝国自体にも。
(俺は・・・・・・、俺は強くなる。強くなって必ず、・・・・・・必ず帝国を討つ!
いつか必ず復讐してやる!!)
この戦い、
帝国により一方的に攻められたタラントだったが、援軍として到着した同盟国の軍が間に合い、なんとか帝国の侵攻を食い止めることができた。
戦いは三か月にも及び、これ以上の戦闘は無意味と判断した帝国が撤退することでこの戦いは幕を閉じた。
あの大戦から一二年が経った。
今、俺は必死に訓練をし、プロシード内で剣術トップの成績を勝ち取った。そして、今まさに、俺は正規兵へとなろうとしている。悩んだ末、決めた。
俺は大将軍になる!!
この国を護るために・・・・・・。
そして、帝国を倒すために・・・・・・