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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第四章◆
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83話 過去の災い

 やはりどれだけ加護を無尽蔵に使えると言っても、大量の魔獣を一度に倒すことはできない。それはどこに魔獣がいるか分からないからであって、見える範囲ならば一瞬にして倒すことが可能なんだ。それでも突如姿を現す魔獣の姿が、地球では見慣れない進化を遂げているために一瞬躊躇するのだが、それも仕方のないことだ。


「なんでニワトリなのにシマウマの柄なんだ!? それも、人間よりでかいじゃないか! その前にこいつらの足はなんでこんなに……。だははは、もう耐えられない」


 思わず笑ってしまうようないでたちの魔獣が突如俺たちの前に飛び出してくる。地球の基準で考えれば冗談のような姿だ。


「いちいち気にしてたら怪我するよ!?」


 ユリカが腹を抱えて笑っている俺の背中を撫でながら心配してくれるのだが、これだけ大きな力を得た今となっては、魔獣狩りに危険は無い。せいぜい、気を抜きすぎてかすり傷を負う程度だ。


 こいつらはとにかく奇妙だ。どうやら12000年前に持ち込まれてから、こちらの世界で独自の進化を遂げたんだろうが、それでもあまりの奇妙さに吹き出してしまいそうになる。それにしてもなんて短足なんだこのニワトリは……。体と足の大きさが合っていないのがおかしすぎる。


 ここ1年以上、毎日のようにこの不思議な魔獣たちとの戦いが続いている。可愛らしい毛だらけの魔獣と戦ったときには、完全に参ってしまった。何しろ白い毛が可愛らしい大きなウサギのような生物なのだが、こちらの存在を認めると牙をむき出しにして襲いかかってくるのだ。そうなると残念ながら戦わざるを得ないので、微妙な罪悪感に苛まれながら剣を振るうこととなる。


 だが、時には虹色水晶を取り込んでいない通常の大ウサギもおり、その存在は騎士たちに癒しを与えてくれる。騎士に懐いてしまう生物もいて、他の野生生物を狩ることで得られた食料を分け与えているうちに随伴家畜のようになってしまっていた。どうも惑星ヴェガルのウサギは、肉食のようだ。


「もうお腹も大きくなってきたんだから、ユリカは無理しちゃだめだよ~?」


「ありがとうミュー! でも運動すると安産になるってお母様が……」


「でももうだめね。今日で終わりよ~」


「今日でー!?」


「トレノもなんだかんだで急に産気づいたでしょ? 魔獣狩りの最中に産気づいても危険だし」


「そ……そうだよね。街も大きくなってきてるし、あとはみんなに任せるのも、申し訳ないけど信用の証ね」


「俺もそう思ってずっと言ってたんだけど、ユリカを説得できたのは結局ミューだけだったのか……」


「アハハ、できる限りカケルの役に立ちたかったからだよー! 王様なんだからどーんと構えてればいいのにー」


「むしろ王妃が」「どーんと構えすぎ」「太陽王は形無しね」


「ははは。2人も嫁さんがいると、そりゃもう仕方ない」


 クマソとの良好な結婚生活を送っている三人娘、いや三人妻が俺をからかうのだが悪い気はしない。とにかく平和だからだ。


 先に生まれた子は第一王子として、今後この惑星ヴェガルを統治していく中央王家の礎となるはずだ。そしてユリカのお腹の中にいる子がこれまた男ならば、ダブス家と同じように4王家それぞれの礎となっていくのだ。やがて5つの王家は婚姻を繰り返し、2つの血は混ざりあう。遥かな未来に至るまで、俺たちはずっと家族なのだ。


 ヤマト大陸には3つの大都市が生まれた。北方の湖地帯にある第一都市トレノールには既に移住が完了した2億人が住まいを構え、東方の丘陵地帯にある第二都市ユリカルには1億人が生活している。南方の大カルデラにある第三都市アソノウチは7千万人ほどが居住しているが、まだまだ土地には余裕がある。新しく移住者が来ても、すでにそこで生活を送っている市民たちが次々と家を建てるので、俺が建築に携わることもない。


 それもすべて、遺跡のあった大陸で発見した新しい黒水晶のおかげだ。今度の黒水晶は地球のものの10倍以上の大きさがあり、加護の発現率が100%に近い。その代り地球の黒水晶と比べて大幅な能力減少が見て取れる。それは騎士たちがこの星の魔獣から集めてきた虹色水晶がまだ、2トンほどの大きさしかないからだ。虹色水晶をかき集めて、それが10トンほどの大きさになればおそらく、加護は地球と同等の強さを発揮できるはずだ。


 すべてがうまくいっている。だが、このままでは終わらないという感覚が、ヴェガルへ移住したすべての人の心の中にあった。大いなる災いのあらゆる可能性を分断しても、まだ災いがやってくる感覚が消失しないのだ。それは地球にいる間には一切感じられず、ヴェガルへやってくると突然感じるのだ。ヴェガルで災いが起こるのか、それともヴェガルだからこそ感じるのか。どちらなのかは、まだ分からない。


 王となってから特に感じるのが、民との間の繋がりが希薄になっているということだ。何度も地球各地を巡ってヴェガルへの移住を促すのだが、約5億人はいつまで経っても腰を上げない。むしろ、災いが来るのならば生まれた土地で死にたいという声が殊更に聞こえるようになってきた。


 どうすれば説得できるのか。そもそも説得する必要があるのか。災いが来るまで残り1か月を切っているここまで引き延ばされると、もうこのままでもいいのかもしれないと思ってしまう。


 障壁となっていたのは、おそらく国家と民族の存在だった。ヴェガルへ来れば統一国家として多民族の中で生活していかなければならない。現在統治している国主たちへの敬意も消えないのだろう。だから国家形式がいつまでも残り続け、仕方なく国主たちもそれを統治するものを縁戚者から選んで任せ、ヴェガルにやってきた国主は爵位を取って領地を運営している。だからヴェガルには黄色人種だらけで、白色人種や黒色人種はほとんど見かけない状況になっていた。


 人類に有益な動物たちも、世界各地からノア飛空送社の飛空船でかき集めてもらいヤマト大陸へ放したため、もともと居た動物たちには悪いのだがヤマト大陸は地球全体を凝縮したような生態系ができつつあった。





 もはや地球上に最後に残った災いの種は闇黒神の存在のみ。第一都市トレノールの王城で、公爵たちとともに闇黒神についての歴史を紐解くのはサユリ・ヤワタ大臣だ。


「確認できた事象は36件でつ。いくつもの事象が同じものと判断できまちて、最終的に地球上で発生したと判断できるのは3件でちた」


「ではサユリ大臣、1件ずつ報告を頼む」


 今では王家の重鎮となっているサノクラ内政大臣が、かつての部下を温かい目で見つめながらその成長を喜び、それを言葉に乗せて話を促す。


「分かりまちた! では最初の1件が、36000年ほど前に起きた隕石の落下でつ。これは地球軌道とは交差しないはずの隕石を闇黒神が捻じ曲げて落下させたと推測できまつ。このとき、落下地点の北アズダカでは黒い龍がそれを見ていたという伝承があり、闇黒神の影響と断定しまちた」


「その落下地点がバリンジャーか? あの陥没孔は隕石の落下跡だったな」


 サノクラ大臣は報告に補足をつけ、他の出席者たちにもすんなりと分かるように配慮している。元メクスの国主はこのあたりのことに詳しいだろうが、ヘブライやデガノの出身者たちはあまり知らないことだからだ。


「そうでつ。北アズダカのバリンジャー陥没はその落下地点と思われまつ。次が24000年前に起きた太陽光の増光現象でつ。太陽火炎か、表面爆発が急激に何度も起き、それがすべて地球側を向いていたものと思われまつ。このときは世界全土で上空に黒い龍が見られ、それが8本の首を持つものであったことが分かっていまつ」


「8つの首……オロチの姿と同じか」


「最後が12000年前のダイムー大陸のアイラ山および、ヤマタイ諸島南部のサクラノ山の大噴火でつ。2つの火山の頂上に黒い龍がやってきたという伝承が現地人の間に見られまつが、それはすべてサクラノ山周辺で語られていて、当時ダイムー大陸にいた人間はいなくなってしまったようでつ」


「サクラノ山の周辺がアイラ地方と呼ばれるのは、その関連があったのか?」


「そうでつ。2つの山は同一のものという考えがあったようでつ。同時に爆発したからでつね。現在のアイラ山と同等の大きさがサクラノ山周辺にはあったようでつが、爆発ですべて吹き飛んだようでつね」


「すべて、12000年の周期……。隕石、太陽異常、火山噴火か。そこから考えられることは?」


「5つの12000年前の遺跡にあった地図からは、ダイムー大陸が浮動大陸であることが理解できまつ。また、大陸地下には先月大きな空洞が発見されまちた。そこから導き出される大いなる災いとは、やはりダイムー大陸の沈下による大津波でつ。そこでカケル殿にお願いしたいことがありまつ」


「やはり大津波か。うん、なんだろう?」


「ダイムー大陸をまるごとヴェガルへ転送していただけまつか!!」


「「「はああああああ!?」」」


 大陸まるごととは……。とんでもないことになってしまった。それも、しっかりと太陽神の力を借りれば可能となるのだろうか……。

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