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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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64話 前途

「それで、マズル市の副市長はなんて?」


 王閣に初めて入城した直後、突如入ってきた報告に呆れた声で、仕方なくアザゼル近衛兵長に確認する。玉座の前で、全員立ち尽くしながらも肩の力が抜けた緊急会議だ。まあ偉そうに玉座へ腰をかけるつもりも無かったのだが。それにしても会議ばっかりだな俺たち。賢者とか王になると仕方の無いことなのか。まあ、楽しんで会議できていることが多いのだからいいけど。でも今回はさすがに緊急事態だ。今回も、と言うべきか。


「まだ返答はありません。無言の答えとして、飛空港は完全に封鎖されていることだけが分かっています」


 アザゼル近衛兵長も呆れたように俺に答える。


「うーん。じゃあヤマタイに取り残された人たちは今どうなってるんです?」


 こうなってしまっては半分予想は付いていることでも一応確認だ。


「人口1200万人の、国民すべて、無政府状態で取り残されています。元政府の上層は混乱していて応答内容が支離滅裂です」


 ああ、やっぱりな。ヤマタイ国主も無茶苦茶だな。


「うーん。そこまでやるかねえ。為政者の片隅にも置けないな」


 俺たちは勝ったと思ったのだが、お互いに情報戦を仕掛けていただけで、どうやらそれぞれ得意な分野でお互いが勝っただけだ。火星に到着する飛空船はすべて火星のマズル市に徴用されたらしく、乗組員が着陸寸前にその件を風伝を送ってきていた。現在火星周辺に到達してしまった飛空船も食料の問題で地球へ引き返すわけには行かず、捕らえられることが分かっていながらも火星へ着陸するしかないようだ。火星からは飛空船が飛び立てず、おそらく今後火星に近づく飛空船はすべて捕らえられてしまうのだろう。


「ヤマタイの民衆をそっくりそのまま、見捨ててしまうとは予想外ですよ」


 容疑のかかっていた者たちは、ヤマタイから飛び出して行った。おそらく当初から選ばれていた人員だけで火星へ出発したのだ。大型星間飛空船15台の大船団、おそらく3000名ほどがヤマタイを出発した直後、火星にあるマズル、エコー、オリジンの自治3市がそれぞれ独立を宣言する風伝をダイムーへ送ってきた。地政学というか星が離れているのだから事実上、独立を認めざるを得ない。


 地球上では俺たちの有利に終わったが、火星は予想以上に準備が進んでいたようで、『赤い火星』が有利な状況となったのだ。これによってダイムー王国は地球と火星で、事実上分裂した。『赤い火星』の計画とは少し外れていたものの、彼らが準備していたものは生かされてしまったのだ。


「ヤマタイ政府がダイムーとの連携について協議に入るのなら、ダイムーは快く迎えると伝えてほしい。シルスさん、すいませんが少々ヤマタイに出張ってもらうかもしれませんよ」


 シスカ王の弟であるシルスなら、ヤマタイの民衆も内政干渉だなどと騒いだりしないだろう。彼の妻はヤマタイ出身で、ヤマタイ民衆には好かれているからだ。緊急親善大使という扱いで、しばらくヤマタイを助力してもらわなければならないだろう。


「そうですね。こうなったらそれも視野に入れておきます。あちらの政府がうまく収まるように、協力は惜しまない旨はすぐに伝えます」


「抜けてしまった宰相は臨時的にシスカ殿が兼任してください。多分、今後ともダブス家の皆さんは宰相や大蔵大臣になっていただくことになると思います。もう一つ空いている大蔵大臣はどうしましょう?」


 空いてしまった大臣の椅子は3つ、宰相と火星開発大臣、大蔵大臣だ。火星開発についてはもう終了せねばなるまいから、残り2つを埋めねばならない。シスカ王が退位したらすぐに宰相になれば、国民感情だって損なわない。


「大蔵省は、当面はクルスタス開発副大臣に兼任してもらうのが妥当でしょうな。今後についても、そういう準備だけはできているので問題はありません」


 クルスタス開発副大臣も父親が宰相をやっていて、予算編成については彼自身が秘書として携わっていたため、まだ若いが大蔵大臣を務める能力はあるはずだ。


「クルスタスなら問題ないでしょう。実質的に予算編成は彼の案がほとんど通っておりましたからな」


 なんだ、そこまでできていたのならまったく問題が無い。国内、それからヤマタイもある程度まとまるだろう。さて、忙しいがいろいろと一気に決めていかねばならないな。明日が即位式だというのに、完全に意表を付かれた感じだ。





「カケル様、ではなくカケル殿。マズル市にまだ潜伏している2名の隠密をどういたしましょうか?」


 俺が出した様付け禁止令に、目を丸くして驚いていたシスカ王は、すぐに諦めて同等身分を表す呼び方へ、無理をして変えていた。


「そうだな。本当ならそのまま潜伏しろと言うべきなんだろうけど…」


「退避させますか? 現状では封鎖のせいでそれが難しいのです」


 飛空港が封鎖されているのなら、隠密たちは地球へ飛び立つことはできない。


「うん。俺たちが迎えに行くまで、ちょっとの間潜伏していてもらってもいいかな。退避もなかなかできないだろうから」


「迎えに!? カケル殿がわざわざ隠密2人のために、危険を犯して火星へ!?」


「ええ、自分のために命を張ってくれた人たちに申し訳が立たないですし。それにちょっと案がありましてね、何とかします。でもそれは後で皆さんに伝えましょう。後残ってる問題は…月はどうなっていますか?」


「いえ、月についての情報はまだ来ていなかったと…」


「皆様。ついさきほど、無許可で飛空船が10台ほど飛び立っていったという情報が入ってきました」


 シスカ王が言いかけたところを、天井から降りてきた隠密が補足した。


「おそらくそれも『赤い火星』だべ?」


 クマソの言うとおり、無許可ならおそらくそうだろう。そもそも月から一度に10台も離陸することなんて無いのだから。


「今度はルネラス基地にも10万人取り残しですか…それは王都に退避してきてもらいましょう。さっそく飛空船を可能な限り用意して、月とウルの間で往復させましょう。しばらく基地は閉鎖することにして、彼らの職については誰か対処に入れますか?」


 緊急事態のさなかに、地球から離れた研究都市を開放したままにしておくのは危険だ。俺は閉鎖をすぐに行うことを決めた。だが10万人の中でも7万人以上の職が、突然あぶれることになる。地球でも職を作り出さなければならないのだ。


「私に案が。賢者殿、カノミ物流社の副社長は、今動けますか? 対処するために国政に携わっていただきたいのですが」


 ゼルイドは突然突拍子も無い人物の名を上げた。


「え? 父を? 会社なら多分、父が抜けてもしばらく持ちこたえられると思いますが、幹部育成がうまくいっていればの話です」


 ユリカも想定外のことに驚いている。


「すぐに打診してみてください。カケル殿、緊急対策省の設置を私は立案します。人と物の移動については専門であるカノミ物流社の人間が適任でしょう。木星圏への人類移動という段階になったらまた必要になることですし。それに民間企業の経営者ならば職を作り出すことも比較的容易でしょう」


「ああ、そうですね。では緊急対策省を設置しましょうか。大臣はサノクラ師範ということで。ああそうだユリカ、大量に来ていた恋文に、返事ってしてたっけ…?」


「あっ! とうとう力を借りる時が来たのね。大丈夫、緊急時には手伝ってもらうことになってるよ」


 加護戦でユリカの靴箱に入れられた大量の恋文は、ここで役に立つのだ。そういえばユリカに愛の告白をした女子生徒はどうしたのだろう? まあそれはいいか。


「じゃあ、緊急対策省の人員構成は、彼女たちを急遽集めよう。たしか100人だっけ?それぐらいいればしばらくは十分だろう。庁舎は、どこか空きはありますか?」


 王城の中には、緊急的に庁舎にできる建物と言えば、宿泊殿があったが執務には向いていないはずだ。俺だけで結論を出すよりは誰かが案を出してくれたほうがいいだろう。


「それなら、大手門前の高楼がいいじゃろう。ウル伝聞社は近年売上が落ちていて、高楼の中がスカスカじゃという話を聞いておったからのう。賃貸料を払えば彼らも大喜びじゃろうて。早速打診してみるわい」


「お、ではシルベスタ殿、それでお願いします。あと抜け落ちている対処はないかな?」


「火星の隠密2人を、どうやって救うのかが後回しになってるよ?」


 ああそうだった。


「ああ、ゼルイド先生が火星に行ったことがあるんで。光の精神加護でその映像を抜き出して、ユリカに見せれば一度行ったことになるかもしれないから、こっそり火星へ行けるかなって」


「ほう、それは面白い。じゃが危険なのは変わらないぞい。道案内を用意して、綿密に計画せねばならんのう」


 爺様はおそらく、綿密な救出作戦を練ってくれるだろう。火星へ行ったことの無い俺より、爺様やゼルイドに任せたほうが、よっぽどうまく計画を作ってくれるはずだ。緊急時にはこうやってすぐに対策を取らなければいけないというのが政治学の常套だが、これだけ早く方向性を打ち出せれば最悪の事態は抜け出せるはずだった。


「そうだ、希土類はどうするのさ? 機械には火星から出る希土類が必要だろう? 火星にしてやられたのかい?」


 ああ、そんなのもあった。そのマスタリウスの指摘に、場が俄かにざわめく。それは痛いぞ。地球の経済は火星に握られていたのだった。


「あー、実はそれなんだが」


 ゼルイドが含みを持たせて肩を震わせながら笑う。クルスタス機械工業の次期社長ならではの秘密情報があるのか?


「実は、希土類は使わなくてもいいんです。火星に産業を持たせるために使っていただけで、それが手に入らなくなっても生産に支障はないんですよ。これは秘密でしたけどね」


「えっ、じゃあ火星の切り札は最初から無かったも同然か?」


「ええ、おそらく希土類を切り札にするつもりだったんでしょうが、封鎖したところで無駄ですね。かえって食料が手に入らない火星が衰退することになるでしょう」


 ゼルイドの暴露に胸を撫で下ろすが、しかしその安堵感もすぐに打ち消されることになった。





「おっ!? 揺れてる? 久しぶりだな」


「揺れてる。地震だね。もしかして、クマソの予知がもう現実に?」


「カケル殿、窓の外を!」


「おおっ!? 噴煙が…すぐに、アイラ地方全域へ避難警報を出しましょう!」


「あの噴煙なら、まだそれほど規模は大きくありませんな。避難は間に合うでしょう。その避難先も王都ですか…?」


 王都の郊外なら空いてるだろうから、仮設住宅をかなり多く建てないといけないだろうな。月から10万人、アイラ周辺にも5000人ぐらいはいたはずだ。緊急対策省の仕事は避難民をすべて運び、収容し、彼らのための職を作り出すのだ。かなり大変な仕事になる。


「こういうことは立て続けに来るもんですねえ。師範の仕事が増えるけど、娘のためと思って頑張ってもらえるかなあ…」


「お父様じゃないとできない仕事なの、って甘えたら首を何度も縦に振ると思うよ?」


「ハハハ…、そうだった。実際、師範じゃないと無理だろうな。さて、やることが増えちゃったけど、今日中にできることはやってしまおう!」


「おー!」


「カケル殿。これはもう、王として十分な働きですぞ」


 シスカ王は緊急対策が迅速に決定したことを褒めてくれたのだろう。


「ハハハ、数字をいじる仕事でさえなければね。でも、みんながいてくれているからですよ」


「このまま行くと、猛烈な量の要決済書類に見舞われることになりましょうが」


 うわ、そういうこともあったのか。だけどそれは王に権力が集中しているからこそ発生していることであって、しっかりと権力を分散すればそんなことはないはずだ。


「それはしっかり分権して、みんなで対処していきましょう。太陽王なんて政治面では飾りでもいいのですよ。重要なのは大臣たちです」


「フォッフォッ、その政治に対する考え方も、伝え聞くサイカ王と同じじゃのう」


「ああ、そうなんですか? じゃあこれで合ってるんでしょうねえ。即位式も予定どおり行って、ちゃんと民衆を安心させてあげましょうね」


「それがいいね」 「ついでに結婚式も同時」 「私たちもよ旦那様」


「あっ、そうだったべ…。ぐっへっ! それは痛いべ、アイデインさん」


 クマソもついにアイデインの手刀の餌食となったか。今のはどういう意味だ? 結婚式のことを忘れるんじゃない、ということか。それにしても円卓会議というのは、次々に意見が飛び出してきてしまって書き留めるのが大変なのだが、ミューは書記としてしっかり書き留めてくれているので安心できる。


 彼女の夢であった火星のための穀物遺伝子改良は、もう果たせなくなってしまうかもしれない。だがもしかしたら、災いが発生したあとに木星圏でその遺伝子改良を続けてもらうことになるだろう。それは火星での仕事より大きな、人類全体に関わる仕事だ。だからミューは、誰が見てもやる気に満ちているように見えた。





 即位式には400万人以上が押しかけたため、王都の交通は完全に麻痺した。これだけ押しかけたらさすがに仕方がない。会場から離れている人たちは、何も見えていないようだったがとにかく地響きのような歓声だけは俺にまでしっかり届いていた。しかし俺の声は王都中へ、風の加護で届けられる。


「ダイムーの皆さん、こんにちはー! 三代目の太陽王となりましたカケル=ヤマトです!」


 一瞬で歓声が消える。会場の人々は、このとびきり明るい挨拶に疑問を感じているようだ。おそらく王都全体がその状態だ。妻となったユリカとトレノが、隣で腹を抱えて笑っている。壇上に並ぶ木星華之団、改め太陽之団の面子は、4組の夫婦を擁する大家族のようになっていた。


「最初に言っておきますが、自分は偉い王様とか、そんなものじゃありません」


 俺の声は何重も跳ね返って王都へ響いている。耳が痛くなるほどに音声が拡大されているのだ。


「皆さんのために働く、しがない一人の人間だと思ってください。それが、太陽王なんです。世界の皆さんを大いなる災いから救うのが自分の仕事です。でも自分ひとりだけでは対処できないことだってあります。だからみんなで一緒に頑張りましょう! 力を合わせれば、きっとできます!」


 その後はもう何を言っても、大きすぎる歓声で俺の声は通らない。仕方ないので4色の加護矢を天空へ放って太陽王の即位を示してみたが、余計に歓声は大きくなるばかりだ。そんな民衆は知る由もなく、火星からの敵対通達は、その即位式の間に宣言されていたことが後で分かった。さらにアイラ山は、王都の民へ自然の驚異を思い知らせるかのように、はるか遠くで噴煙を上げ続けている。太陽王の前途は、多難だ。


これにて、第二章終了です。


第三章の舞台は宇宙へ(´・ω・`)

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