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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第一章◆
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4話 少女の想い

 お父様はあの死地から戻ってきた後の病床で、私にもそのときのことを教えてくれた。


「確かに魔龍と戦っていたことは覚えているんだが、彼らを送り出した後の記憶が曖昧だ。そして気がつくと海辺にいて、飛空船に救助されたよ」


 その時間の途絶は、長い時を共にした仲間の命をその腕の中で喪い、おそらくそういった心身への衝撃で記憶に混乱を来たしたのだろうというのが医師の診断だった。3週間もの長きにわたって死んだときのままの姿でいたタケル様のことについては、北の地だったので亡骸が傷まずに済んだのだろうという推測だった。


 不思議なのはそれだけの間、お父様がどうやって命を長らえさせたのかということだったが、私にはほとんど諦めていたお父様が、こうして生きて帰ってきてくれたことで胸がいっぱいになり、左腕に大怪我をしているにも関わらず寝床の上の怪我人に大声を上げながら抱きついてしまった。


 お父様とタケル様が勇気ある行動を取らなければ、あの14人もおそらく生還していなかっただろう。そうなればあの旅館に集まった遺族は、広間に収まりきらないほどになっていただろう。私もあの時、完全にお父様が戻ってこないのだと思って泣き続けていた。





 14人の説明を聞くのも遺族の務めだが、小さな子供には辛い内容なので、私たちは別室に通されたのだけれども、一人だけ母親と一緒になって彼らの話を聞こうとしている同年代の男の子がいた。


 その状況に驚いて、私は泣くのも忘れその子の顔をよく見てみると、お父様の騎士仲間であの有名なタケル様によく似た私と同じぐらいの背をした男の子で、その目には強い光が篭っていた。ああきっと、あの子がタケル様の子なんだろう。その目はまるで、お父様が修練中によく見せる、あの力強く意思の篭った目と同じで、私はお母様に手を繋がれていることも忘れて、完全にその子の目に惹かれてしまった。その目を見ているだけで、お父様の命が尽きてしまったであろうこの緊急事態すら忘れられ、何故か私の心はとても落ち着いた。あれは、まるでお父様と同じ目、騎士と同じ目をしているんだ。


 私にとっては騎士の存在自体、実はそんなに好ましいものではなかった。私の中では騎士といえば、優しく力強い、修練場ではいつも寡黙なお父様、ただその人しか知らない。毎月のように風伝版に載るような、輝かしいいろいろな騎士たちの世界は、私にとっては痛々しいものでしかなかった。どうして死にそうな目に遭ってまで、冒険をするのか。実際どれだけの騎士が命を落としているのか、それが分かっていながらどうしてまた出発するのか。


 お父様ほどの技能があれば、そういった命の危険も少ないことは分かっていたが、私を置いて探索に何ヶ月も行ってしまうお父様の職業である騎士を、私はあの日まで快く思うことは無かった。そう、あの日までは。





 目の前にあの強い目をした男の子が、あの時と同じ、いやそれ以上の強い光をもって、何故か私たちの目の前で土下座をしていた。しなやかな体つきはまるで肉食獣のようで、おそらく敏捷なのあろうことが分かる。宿泊施設で見かけたときは耳にかかるくらいの長さだった栗色の髪を、ばっさりと短く切ってしまったようだがそれがよく似合っている。少し離れたところで、あのときも一緒だったこの子の母親が、その様子を見ながら沈痛な趣きで見守っている。少年と同じ色の、下ろした長い髪が美しい、ほんとうに呆れるほど綺麗な人だ。目鼻立ちはくっきりとしていて全体にはこの子と似ていないが、目がそっくりだ。


 なんとか退院はしたものの、左腕の筋を切られ思うように動かせないために、もう騎士を続けることを諦めざるを得なかったお父様の前に、あの子が突然土下座をしたのだった。私はその意味がすぐには分からず、少し混乱しながらもお父様の後ろに隠れ、その様子を見ていたが、ヤグラ叔父様がお父様に「タケルさんの息子、カケル君だ」と小声で伝えると、お父様は渋々口を開いた。


「お前も、騎士になりたいのか?」


 ついこのあいだ、自分の父親が命を落としたというのに、まさか私と同じぐらいの歳の男の子が、騎士になりたいなんて思うわけが無い、いやでも、もしかしたらこの子なら騎士になりたいとずっと思っていたのかもしれない。それだけの覚悟が目からだけでも感じられた。伏せていた頭を持ち上げて、あの強い目をお父様に向け、すぅっと息を吸うカケルという男の子、この目…ずっと、ずっと見ていたい。なんでだろう。


「必ず特級騎士になり、父の仇を討ちます。そして大いなる災いを防げるような、そんな立派な騎士になります。どうか私に体術を教えてください」


 強い、なんて強いんだろう。この歳で父親の仇を討ち、大いなる災いまで防げるような騎士を目指すことを、ここまで強く言えるのは、もう既にこの子の心が職業騎士と同じぐらい強いことである証拠だ。


「カケル、どんなに苦しくても、泣き言を口にせず、やり遂げると誓えるか?」


「父、そしてサノクラ様たちの苦労に比べたら、そのようなことは些細なことです」


 この子は本当に、既に騎士になっているつもりなのだと私は理解した。この強い心の力は、おそらく相当強い加護を生み出すことになるのだろう。お父様も、ヤグラ叔父様もカケル君の未来を簡単に描けたのだろう、二人とも目を見開いていた。けれどもお父様はもう腕が動かないから、きっとカケル君の満足が行くように体術を教えてあげることはできないかもしれない。だから、片手だけで教えられる範囲までだ。それでも拳術を極めたお父様なら、きっと何とかしてしまうのかもしれない。カケル君はヤグラ叔父様のことは知らないから、騎士として有名だったお父様を当主家元だと思って頼み込んでいるんだろう。すぐにヤグラ叔父様が口を開いた。


「む。今日からカノミ家の見習いとして私の家に住み、修行に励みなさい」


「ありがとうございます!」


 えっ、それってどっちの家!? と、ちょっとだけ勘違いして期待してしまった私は、ヤグラ叔父様に連れて行かれるカケル君の後姿を見て、カケル君と居られるのならと、私も一緒に修行すると心に誓った。おそらくそのときの私の目も、カケル君に劣らず力強い目をしていたに違いない。





 カケル君はとにかく無言だった。道場に入ったら「ハイ!」としか言わず、黙々と拳術の型を続けている。まったくぎこちないという事は無く、滑らかな動きで型をこなしているが、まだ全部覚え切れていないようで、時々勝手な動きをしてお父様に怒られていた。


 もう少し、カケル君とおしゃべりしたいのだけれども、さすがに修練中におしゃべりをするわけにもいかない。こういう家に生まれてしまったから、私の周りには同年代の友達はあまり寄り付かない。道場に申し訳程度に来る、少し年上のお兄さんも、道場のあまりの厳しさに数ヶ月持たない。基本的に長期間修行に耐えられるのは、高校生以上の男の子みたいだ。そのお兄さんたちにもかわいがってはもらえたが、歳が離れすぎていて友達という感じではなかったから、私もあまり道場へは来なかった。


 ううん、でもそれはきっと私自身のせいだ。もっと明るく元気に振舞っていれば、きっと友達もできたはずなのだ。私は引っ込み思案だった。私は変わらなければならない。そうでなければ、カケル君を私のほうへ振り向かせることはできないはずよ。私はドジだから、いつも周りに迷惑をかけてしまうし、よくお父様にそれを怒られていた。それでドジをするのが怖くて、行動することを怖がっていた。だから、私には友達が一人もいない。ドジでもいいから、もっと明るくなりたい。みんなと一緒に遊びたい。





 修練場ではわずか7歳のカケル君が、だぶだぶの修練着に身を包み、叔父様から前蹴りを喰らっている。まったく叔父様を攻撃するための間合いに入れず、気合だけが空回りしている。


 うん? 一緒に修行すると言ったからには私も同じことをしないといけないの? と、ちょっと焦りながら、どうやってカケル君と同じ憂き目に遭わずに済むかを考えても、道場に来ること自体があまりなかったので動き方が分からない。そもそもなんで、初めての修練がこんな前蹴りボコボコ喰らうような組み手なの!? と思っていると、叔父様から声がかかってしまった。


「次、ユリカ!」


「ハイ! 叔父様」


「叔父様とは呼ぶな。弟子入りしたからには身内も関係ない。これからは師匠と呼べ。父親は師範だ」


 うっ…厳しい…これからお父様と呼ぶこともできないのね…これじゃあ子供たちが逃げ出すわけだ。


「返事はっ!?」


「ハ、ハイ!師匠!」


 気がつくとカケル君は壁の近くでお腹を抑えて呻いているが、前蹴りを何発も食らったのだ、内臓にきているに違いない。あれはきっと一日中あのまんまだ。


「よろしくお願いします!」


「オウ!」


 とりあえずカケル君の二の舞にならないように、前蹴りを喰らわないようにし…


「うにゅっ」


 早速喰らってしまった。大人と子供ではあまりにも実力の差がありすぎるが、これでも手加減してくれているのだろうに、まったく話にならない。


「止まっていると前蹴りの餌食だぞ!」


「ううっ…ハイ!」


 そうだ、とにかく動かないとだめってことだ! 私分かっちゃった天才!? 叔父様、いや師匠が蹴りを出そうとするときに体を動かして狙いをはずすのよ。っと思って動いていてもまた喰らう。


「ぐにゅっ!?」


「ほら、そんなことでは前蹴りをかわせないぞ。動きが直線的だ! 私の足元だけを見るのではなく全体を見るのだ」





 結局、動いても前蹴りを何発も喰らってしまい、カケル君と同じ行動をそっくりそのままなぞっただけになったことに気づいた頃には、私も壁際でお腹を抑えてウンウン唸るだけになっていた…女の子なのにこんなにお腹蹴られるとは…。


「今日はこれまで! 明日は別の修行をするから、体を休めておきなさい」


「「ありがとうございました…」」


 修行がこんなにきついものだとは思わなかった…うう、吐きそう。


「君は、名前は? 俺はカケル=ヤマト」


 わ、吐きそうな顔してたら話しかけられた…これはいけない。吐きそうな顔をした女の子なんて覚えられたらたまらない。


「あっああう、わ私はユリカです!ユリカ=かかかカノミっていいます、よろしくね」


 噛んでしまったけど気にせずニッコリ笑ったカケル君の汗も滴る笑顔に、かんぜんにヤラれてしまった。笑顔に釣られて、私も笑顔になる。あれだけお腹蹴られて、こんな短時間でどうしてこんなに涼しい顔をしていられるんだろう?


「あの時もいたよね。姓が一緒ってことは、ヤグラ師匠かサノクラ師範の娘さんなの?」


「あ、はい師範の娘です。よろしくお願いします!」


 元気よく、元気よくやるのよ私! と考えながら、ぴょこんと頭を下げてもう一度顔を上げると、私と同じようにぴょこんと頭を下げて、さっき以上の笑顔で「よろしくね!」と言うカケル君がいた。何だろう、もうお腹がちっとも痛くない。それどころか心地良い風が吹いている気がする…私はこの子にずっとついていけばいいんだと直感した。この子と一緒に居れば、私は、なりたい自分になることができる。明るくて、元気で、魅力的な人間に。


「とりあえず今日の修行の意味を一緒に考えないか?」


「え?ああ、あれは多分、相手の間合いを知ることと、体を常に動かして狙いをはずす訓練だと思うよ? もう少し動きがついてくれば、相手の動きを予測して避ける訓練になるはずだけど…」


「ユリカって頭いいんだな、そうか、最初から分かってれば違う動きをしたんだけどなあ、1日無駄にしちゃった」


 私もほぼ最初から分かっていたけど、結局違う動きは思いつかなかったから、カケル君の方が頭いいんじゃないか、と首を捻っていた。





 ともに同じ内容の訓練を受け、その後に2人で訓練の意味や本来動くべき修行者としての行動を研究しているうちに、12歳の頃には2人とも高校生程度には組み手で負けないようになっていた。いつのまにか私はカケルのことを、「カケル君」と呼んでいたのが「カケル」と呼ぶようになったけれども、そういえばカケルは最初からずっと私の名前を呼び捨てだった。


 そして私たちが高校生になる頃には、お父様とも良い勝負ができるようになっていた。もちろん師匠にはまだコテンパンにされるけどね。片腕のお父様には限界が近かった。それでも、師範代たちよりはるかに強かった。拳術を極めればここまでやれるのね。それでも最近は私たちも師匠の動きにも目が追いついてきたから、自分たちの成果が実感できるほどで、あのウツセミですら、カケルはすでに会得してしまった。


 ウツセミはカノミ流拳術の代表的な技なのだけれども、これを会得できるのは普通、15年以上かかる。いや、20年かけても会得できない弟子の方が多い。覚えたとしても中途半端で、熟練者には見破られてしまうようなものしかできない。さらに技を磨くのに10年はかかるだろう。師範代へ昇格する弟子は、それこそ50歳に手が届くような人ばかりだ。20歳前後からずっとこの道場へ通い、30年近くも鍛えてきてやっと師範代になれるのだ。


 俊敏なカケルの攻撃は、左腕の動かないお父様には荷が重くなってきたようで、このあいだ「私はもうお前達と組み手はできん、あとは師匠とやれ」と言われてしまった。お父様との組み手も私は好きなんだけど、師匠としか組み手できないっていうことは師範代以上の技能が身についているということ。たとえ左腕が動かなくても、そこらへんのゴロツキには決して負ける腕前ではないお父様との組み手に良い動きで着いていくと、最近は目を細くしてぼーっとしていて、あからさまな隙ができるからそのせいかなと思うけど、娘に見惚れて負けるってのは…娘冥利に尽きるけどね。


 最近は師匠の長男カノスが中学に入って、めきめきと腕を伸ばしてきたから、カノミ流は安泰だろう。カノスは中学と高校では勉学に励むということで、道場に来るのは2日に1回くらいだ。たまに女性家元もカノミ流には出るので、私も師匠から命じられれば家元にならなければならない。しかしカノスは騎士にはあまり興味が無いようなので、私が騎士になって外に行っても、流派を受け継ぐ者はいるから、師匠も家元になれと言うようなことは私には言わないだろうし、安心して騎士を目指すことができるはず。





「じゃ、そろそろ期末試験の対策やるぞー」


「ま、まってましたー!」


 毎日夕方から始まる体術の修練を終えてから、道場の沐浴場で汗を流した後はいつも2人で座学の修練だ。息が感じられるほど近くに寄っても、誰にも怒られない至福の時間。でも、この想いを伝えることはできない。17歳になっても顔の掘りが深くならず、子供の頃のままでいるカケルは、ほっそりとした顎も手伝って女の子のような顔つきをしている。


 カケルは本当に熱心に教えてくれるので、ときどき肩や手がそっと触れ合う。私が正解を言うと心から褒めてくれて、頭を撫でてくれる。それだけでも私は幸せな気分になるのだけれども、同時にそれは胸を締め付けるほどの切ない気持ちにもはやがわりする。


 騎士になって当然のカケルと一緒に騎士になるからには、私も私利私欲を押さえ、名聞名利を押さえ、この想いも抑えなければならない。おそらく自分の気持ちを思いのままにはっちゃけてしまえば、心の弱さが露呈してしまい大した加護の力が得られない。それでも、この密かな想いが強くなればなるほど、その想いを抑えれば抑えるほど、加護は強くなる。だから私は確信している。女の子で騎士になることを夢見る子はそんなにいないけれども、私もそれなりの騎士になれることを。


 そしてこの気持ちに浮ついた心が無くなれば、愛を打ち明けても加護は消えない。私自身の心が本当に強くなったと確信したら、そのときはカケルに求婚しようと思っていた。女から求婚なんてと思うかもしれないが、私はカケルを愛しているから、そんなことは関係ない。





「ここで第2代太陽王が生まれる前に、王都で異変があったんだ。結局この時は井戸水の下降くらいなら、大したことはないと民衆は考えていたが、結局この異変が後に王都を危機に陥れた」


「イゼフの災厄ね。その後、王都の地盤が急激に沈下して、海寄りの町は水没してしまった。そこに青年となったサイカ王が現れたのね」


「結局は急激な人口増加に対する地下水資源の無計画な利用が原因だと考えたサイカ王は、東にあるネル湖の水を王都まで引いた」


「地の加護としか思えない力で、たった一人でね。今でも残ってるネル運河ね。あの大掛かりな工事を一人でやったということは、相当な加護の力ね」


「その力を見た初代王家の、時の為政者だったインデスタル=ラー=シンク王は、サイカ=ダブスこそ民衆が待ち望んでいた2代目の太陽王だと確信した」


「ところが悪徳内政大臣のイゼフが、政権が移譲されると利益を得られなくなると完全に反旗を翻して…」


「結局、サイカ王が正式に玉座に就けたのは、イゼフの災厄から6年後、旧太陽暦1910年2月11日だった。その後歴史上、無茶な地下水の汲み上げを行っていたイゼフが、討ち取られただけでなく災厄の名称をつけられてしまったと。結局イゼフ以外に血を流した者はいなかったから、素晴らしい政権移譲だったと初代王家も讃えられている」


「うーん、で、どこが問題に出るの?」


「多分イゼフの災厄の原因と、湖から水を引いてくる因果関係じゃないかな。その辺は歴史学だけじゃなくて地学の内容も入っているし、太陽神信仰の根幹になる部分だから絶対はずせないはずだ」


「うんうん、なるほど。2代王の直前って言ったらそのへんだし、重要部分だしね、助かるなあ~」


「結局こうやって会話することで俺も覚えられるし、なんだかんだでユリカも一夜漬けじゃなくてちゃんと覚えてるから、持ちつ持たれつだ」


「うん! ありがとねー! じゃあ次は計算学を私が教える番ね。3日前にやった微分のところから」


「うーん、なんで数字を微分しないといけないのかよく分からないが…数字なんて整数だけでいいじゃないか」


「微分学は局所的な振る舞いをする加護の力の予測制御に役立つんだから、怠けないでちゃんと覚えてよ!?」


「そんなものは勘でいいじゃないかとも思うけどな、一応覚えなきゃならんよな」


「理論的に分かってるのと分かってないのでは、障壁内二酸化炭素分解とか、極端に精密な動きを要求されるときに力が暴走するかしないかが決まるから、やっぱ覚えないとだめよ」


「まあ、そうなるな。ということは積分も…」


「まあ、加護のためです」


「うーむ、数字は苦手だ…」


 これならば2人とも期末試験を突破できそうだと安心しながらも、その2ヵ月後に控える加護適正試験の方が気になる。試験を受けるまでは絶対はない。それこそ、高名な騎士の息子が、加護なしだったことだって今までに何度もあった。もし私が加護を得られなくても、騎士にならないのならばカケルにこの想いを打ち明けることができる。


 でも、カケルがその想いを受け止めてくれるかどうか。もし受け止めてくれてもカケルが騎士として冒険に出て行くのを断腸の思いで待つという、お母様と同じ気持ちに私は苛まれ続けなければいけないのか。いや、一緒に旅がしたい。私はカケルのおかげで明るくなれた。友達もできるようになった。私はカケルと一緒にずっと、ずっと一緒に居たいだけ…。

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