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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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52話 北北西に進路を

「各組ともまだ起きてきていないようだったよ」


マスタがエイルと2人で、朝早く草原全体を見回りに行っていたようだった。この2人は既に意気投合しているのに、結論は授業が終わってから考えるという。クマソと、エアル・カルクラム・ノーレの3人娘の結論が早すぎただけで、別にマスタたちは普通なのだ。


2人が朝早く起きたのは、ちょっとした興奮状態だったからなのだろう。精神的に高揚していて、それがお互いに良い影響を与えているようで、マスタの加護の流れは以前より遥かに整っていた。


そう言えばアルとミューもあっという間だったなと思いながら、日の出から少し経って部屋の外から明るい光が差し込む俺たちの障壁の中でむっくりと起き出す仲間達のために、俺は灯火の詠唱を天井から吊るした石に仕掛けて明るく照らし始めていた。


「みんな、おはよう。支度ができたら少し会議をしよう。今日、明日の動きを決めておかないとね」


俺とユリカは毎朝修練のために早く起きていたので、目が醒めるのも早かった。マスタとエイルの姿が見えないことに首を捻りながらも、俺はユリカと、家に帰ったら2週間も留守番していたトレノにちょっと甘えさせてやらないとな、という話をしていた。少々の惚気ならば俺は耐え切れると踏んでいるし、愛の方が強いのだ。


昨日着ていた服は、すでに水と火の加護でしっかりと洗って干してあった。加護があればこのアトラタスの地でも快適な生活が送れるだろう。ただし、魔獣に襲われなければだが。


「カケル~ 全員揃ったよ~」


「よし、それじゃあ2日ぐらい先までの行動を決めよう。まずは食料について。意見があれば言ってくれ」


「おいらは、この先支給された食料にはなるべく手をつけず、可能な限り現地調達にすべきだと思うべ。食料が足りなかったときだけ支給食料を食べるという形だべ」


クマソが支給食料を緊急用という扱いに変更しようという案を出していた。おそらくそういう考えでないとアトラタスは乗り切れないだろうから、いい考えだと思えた。


「他に意見は無いか?」


「ハハハ、最初に結論を言われてしまったね」


「クマソの案でいいと思うよ」


「では反対者もいないのでこれで可決。果物はいっぱいありそうだが、植物だけでなく、頑張って動物性蛋白質を取れるように小動物を捕獲しよう」





「では次に、監視者のあぶり出しと捕縛について」


「はいはいはーい!」


「ん? イリス、言ってみてくれ」


「多分私たちが出発すると、エスタたちがすぐ後ろを付いてくると思うの。だから、彼らが仕掛けるときは、私たちの前に回りこむんだと思うのよね」


「ああ、そうかもしれないな」


「つまり探索加護が俺たちの後ろから横へ移動した時が、アタシたちも動く時ね」


「そんじゃあ、光が横を通過したらすぐにそこへ向かって全員で押しかけるべか?」


「そうしよう。エアル、カルクラム、ノーレ、その際は捕縛障壁を頼む」


「は~い」 「絶対に」 「逃がさないわよ~」


「虹色水晶を手に持ってうろたえる姿が目に浮かぶな」


「捕縛完了したら、カケルの精神浄化加護を試してみたら?」


「それでよこしまな心が消えてくれればいいな」


皆、口々に行動の流れを提案するが、滞りなく議論が進むのは全員の頭脳が優秀だからだろう。


「注意すべきは、野営の最中だろう。夜襲が一番危険だ。探索の光が太くなったら近づいた証だから、野営には交代で不寝番を立てよう。魔獣の襲撃にも対応できるだろうしね」


これだけ濃い面子でも、アルは物怖じせずにきちんと要を押さえた意見を言ってくれる。アルが味方で本当に良かった。逆に、敵には残念なことだろう。


「ああ、それじゃあ一人1時間ずつ、いや1回あたり2人がいいな。全員持ち回りでもいいか?」


「女だからって甘く見てる男はこの中にはいないってわけね。いいわ、やりましょう。腕が鳴るわ」


アイカルは男勝りな言葉を、薄く引き締まった唇から吐き出すと腕をぴしゃりと叩いた。アイカルの旦那になる幼馴染というのはどんな奴かは知らないが、少し可哀想に思えてきた。


「予想襲撃地点は明後日の昼か夜だべ。周囲から他の組がいなくなるのはその辺だからな」


クマソの言を聞いてみれば至極真っ当な予想だ。放射状に歩き出す各組の密度は、たしかに24時間ほど経てば少々の音がしても聞こえないほど遠くなるはずだ。





「11時だよ~ 風伝板にはまだ方角出てこない。・・・あ、来た来た。北北西だって」


アトラタス攻略のための組は合計で10組できていた。第一高校が3組、第七高校が2組で、あとは1組ずつだったが第二高校と第五高校は生徒全員が合同してちょうど20名となるために2校が合体していた。


合計10組が、16方位のうち、10方位に向かって歩き続ける。アトラタス中央部の草原からは、北東方向が海岸までが遠く、山脈があるので進行方位としてははずされるのだろう。


「じゃあ行こうかー!」


「「「おー!」」」


ユリカの掛け声に全員で応える。既に障壁は取り去っていて準備は万端だ。


「校長せんせー! 行ってきまーす!」


遠くに見える校長へ手を振り、俺たちは自分たちの背よりも高い草が、ひどい草いきれを起こす中を踏み出していった。


「じゃあ、ここからよろしく頼むな。華之団にはもう言ってあるんだろう?」


やはりゼルイドが俺たちの引率として付いてきてくれた。


「ええ、もうあらかた伝えてありますよ。異変のこと以外は」


「なるほど」


「ねえカケル、探索はどうなってる?」


「右手の草原の中、おそらく300メートル先に一人、これがエスバンだろう。私物の風伝板をエスタたちも持っていてやりとりしているんだろう。後方500メートル先にエスタ組。まだ広場から動いていない」


しばらくすると、エスタを指している光が、遠ざかって行く。俺たちが進んだ方向を確認して、講師たちに不審がられないように課題の方向に一度進んでからこちらに回り込んでくるのだろう。


「戦いのために加護はできるだけ使わず、草を刈るのは神術だけで頼むよアル」


「了解した、マスタ」


アルが前方の草を刈りながら進む。前から2人目のユリカは魔獣の加護流が近づいていないかに注意する役だ。アルは俺たちが歩きやすいようにと、かなり広範囲の草を刈ってくれているようだが、体力もほとんど消耗していないようで涼しい顔をしている。俺たちの後ろには真っ直ぐ、草が切り倒された道ができあがっていた。





「さて、とうとう森の淵へ到着したな」


「ここで水分補給をしながら少し休もう。カケル、森の中に加護流は見えるか?」


魔獣出現率の低い草原は、石だらけの小川に到達するとそこで切れ、川の向こうには森が広がっている。夏至に近い日差しが森を照らすも、鷹揚に育った樹木はその林床へ光をほとんど通さず、木々の間には暗い闇が垣間見えていた。


「ああ、見える見える。わんさかいるぞ。全部1~2キロ級ぐらいだ。こちらの力に怯えて離れていくような弱い加護が20体ほど見える。あれは狼の魔獣だな」


「カケルは5色20、ユリカは闇10、クマソが火7、私が風6だからな。さすがに魔獣でも分かるか」


アルは少し深呼吸すると、少しの間振るっていた神術も、たいしたことがなかったかのように息を整えて、俺たちの加護の強さが数値的にどれだけあるかを語った。


「5色20!? 何それ!?」


エイルキニスが20という数字に驚いていた。それはそうだ、そんな数字は誰も聞いたことが無い。ゼルイドは岩に腰掛けてその様子に笑っていた。


「少々2年生の頃に頑張りすぎたせいか、そんな数値が出てしまったみたいで」


「カケルは頑張りすぎて押し潰れそうだったよ」


ユリカの言う通り、本当にぎりぎりのところで踏ん張っていたと思う。ユリカが側にいてくれなければ責任感と言う名の重圧で押しつぶされ、廃人になっていたかもしれない。何度もそれを考えて、感謝する毎日だ。


「道理で、近くにいると体力の回復が早いわけね。全然疲れが出ないから、アタシはそれがアトラタスの特性かと思ってたよ」


「もしかしてそれは、水の加護が自動的に発動しているの? それも聞いたことが無いわね」


ユリカが以前に言っていたことをエイルキニスも気づいていたようだ。自動発動というのは水の加護を持つアイカルも聞いたことが無いのなら、珍しいことなのだろう。


「いや、俺は水の加護が苦手というか、ほとんどちゃんと使えないんだが。それで風呂もミューに手伝ってもらったりしていたんだよ」


「水の加護は最初から外に漏れ出してる可能性があるべ。ちゃんとそれは意識してやらないと、いざという時に危険だべ」


「液体以外は大丈夫なんだが、どうにも計算学の微積分が苦手で、流体物理が理屈的に分かっていないみたいなんだ。そのせいだよ」


「なるほどな、カケルは計算学は苦手だったからな。こんなところに影響が出るとは面白いものだな」


なんとなく、そんなことになるのではないかと思っていたが、まさか水の加護に影響があるとは、と俺が気づいたのは5月に入ってからだった。


しかし俺はそれを嘆いたりはしない。なぜなら水については強力な仲間が手を貸してくれるからだ。仲間に頼るというのは恥ずかしいことではなく、存分にやるべきことだと気づいたのだから。


「水についてはミュー、アイカル、エイルキニスと3人もいるから、全然心配していないよ。よろしく頼む」


「うん、任せてちょうだい」


ミューは力強く俺の目を真っ直ぐ見て応えてくれた。


「いい仲間だな! 俺が学生の頃はこんなに信頼し合えなかったな」


ゼルイドが懐かしそうに昔を思い出しているのだろう、目を細くして俺たちを岩の上から見ていた。





「みんな、エスタたちが合流したようだぞ。後方600メートルだ。ここからは距離と方向を確認し続けよう」


白く光る力石から紡ぎ出される探索加護は、細い糸のような白い光を、数本縒り集めたように川の反対側へ向けている。そこから動かないので、俺たちを再発見してそこで止まっているのだろう。


「さて、ここまで予想通りね。水分も補給したし行こうか。食料も探さないとね」


おもむろに立ち上がったアイカルが水の加護を使うと、川が半分に割れて森への道筋が生まれていた。


ん? 何か一人足りないべ。


あ、やっべ、おらゼルイドのこと忘れてたべ。


ということで、至急書き足しました・・・

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