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太陽王の世界 ―黎明―  作者: 檀徒
◆第二章◆
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42話 果たされた想い

もう夜中だ。このままここで少し休憩し、日差しが無い夜のうちになるべく歩を進める。昼に寝たので眠気はほとんど無い。過酷な旅の道も、加護を行使すればやわらぐのだった。


「少し大きめに障壁を張るから、体を伸ばして休んでくれ」


「ありがとうアル。じゃあ私は足が痛くなった人を回復するから、やって欲しい人は言ってね」


アルは風の加護で水源地に巨大な障壁を張って、ミューは回復に入っていた。


「ちょっと温めておくかい? 寒いよね」


マスタは障壁内の気温を高めるために、火の加護を封じ込めた力石を取り出して地面へ4つほど転がしていた。暖かい赤の光が俺たちを柔らかく照らし、障壁内の気温は春の心地良い風のようになっていた。


だが、そこまでで俺たちの言葉は途切れる。前日の惨劇がまだ頭の中から離れていかなかった。特にクマソは仲間の命を失うという事態に見舞われていたのだ。


それを思い出しているのか、肩を落としているクマソに俺は声をかけた。


「怪我はもう大丈夫なのか?」


「おいらの怪我はミューが大分回復してくれたから、もうほとんど怪我をする前と同じだべ?」


少し傷の残っている左腕を、袖をまくって俺に見せるクマソは痛みなど何も無いという風に白い歯を見せていた。


「そうか、良かった! ところで、あっちの仲間は良かったのか?」


「ああ、みんなもう職業騎士は無理だって言ってたべ。予測が甘すぎたべ。でも俺はタケルノカミ様みたいになりたいっていうのが諦められんて言って抜けてきた」


「そうか、そう言ってもらえると親父もきっとあの世で喜んでると思う」


「へへへ・・・」


少し元気を取り戻したクマソを見て俺も安心した。それから、少し体を休めようということで、眠気はあまりないのだが全員仮眠した。だが俺は眠らずにある計画を立てていた。






水源地の湧き水から水を容器に入れ、障壁をはずして再度移動障壁を張り、俺たちは次の水源地を目指して歩き出した。


「アル、ちょっといいか?」


「なんだ? どうしたカケル」


俺は計画を実行に移す。切ない少女の想いを後押しするための電撃作戦だ。俺たち2人だけ、他の5人から離れて歩く。ユリカは俺の行動に気づいて笑っているようだ。


「アルは嫁はどうするんだ?」


「ああ、そういえばカケルは既に相手が決まっていたんだったな」


「うん、そうだな。アルは職業騎士になるんだろう? だったら卒業後にすぐ嫁を取るのか?」


「実はそれで悩んでいたんだ」


「何を悩む必要がある?」


「うむ。騎士たるもの、嫁を取ると言ってもどうやって心を保っているのか不明でな」


ハハハ、それは俺の勘違いと同じだ。ちょっと話を飛ばすか。


「アルはミューの気持ちに気づいているのか?」


「む? ミュー? 気持ちという意味が分からないが?」


「気づいてなかったか。やっぱりアルは鈍かったんだな。アルはミューを嫁にしろよ」


「な!? そういうことだったのか!?」


「俺もユリカとトレノが捨身でぶつかってきてくれて気づいたんだが、どうやら騎士が嫁を取るのは堕落ではなく・・・」


「ふむふむ!?」


「より強い加護を得るためなんだよ」


「な!? そんなことが可能なのか!?」


やっぱりそんな認識状態だったか。もしアルが愛に気づいたらいったいあの風の加護はどこまで強くなるか想像がつかないな。






「まず通常の一人の騎士の状態を考えてみよう」


「うむ、強く自制して加護を強く保つ状態か」


「うん、それだとさ、守れるのは自分だけだろ」


「ああ、まあ仲間を守るというよりは自分を鍛えるためのものだな」


「次に仲間といる騎士の状態を考えてみよう」


「うむ。仲間のために動き回り、一つの目標を目指して進むのだな。今のこの状況もそうだな」


「じゃあそのとき、力はどうだ?」


「!? ああ、自分のためだけのときより強くなる気がする」


「だよな。じゃあ次に、嫁を取った時の状態を考えてみよう。妻子がいて、扶養しなければならない」


「扶養? そうか、死ねないじゃないか?」


「そう、一人のときと違って死んでも構わない状態ではなくて、死んではいけない状態に変わる」


「それがより強い加護を生み出すのか?」


「ただし、堕落しない範囲で、ちゃんと家族と触れ合ってその都度生きている実感を得る必要があるだろうな」






「なんとなく分かってきたぞ。つまりそれがカケルの言っていた愛か?」


「そうだ。結論としてすぐに嫁を取れということで、騎士は卒業するとすぐに結婚するわけだな」


「それでか。納得した。今すぐミューに求婚してくる」


「何ぃ!? ちょっと待て!」


さすがにそれは展開が早すぎる。そんなことをしたらさすがにミューでもどうかと思うだろう。アルは真面目、いや真面目すぎるのだ。


「お互いの気持ちを確認しあってからにしろよ」


「む・・・ではそうする。この課外授業の間に話をしてみる」


「そもそもアルはミューを愛せるのか?」


「・・・ああ、信頼できる仲間だ。そう思う」


これなら心配ない。電撃作戦は予想以上の成功だろう。ユリカが俺の表情を見て成功したことに気づいたらしく、こちらに手を振っている。横でマスタも握りこぶしを作って俺に向けていた。


肝心のミューは、俺はもはや視界の外で、ずっとアルを見ているようだった。その後、アルはミューに声をかけ、2人で俺たちから少し離れながら話をしていた。うん、この2人はうまくいくと思う。笑顔で話し合っている2人を見て、俺はそう確信した。





「みんな、聞いて~!」


次の休憩地でミューが泣きながら、いや泣きながらも笑顔で俺たちに声をかける。すぐ隣のアルとは手をつないでいる。なんだ、ずいぶん展開が早いな。そう思って眺めていると、次の言葉に耳を疑った。


「・・・私たち! 結婚しました~!」


「「「「「えええええええ!?」」」」」


そこまでいくと展開が早いとかいう問題ではない。一番わけが分からないのはクマソだろう。仲間に入ったと思ったら仲間が結婚していた。どういうことか分からないであろうクマソは半分喜びながらも首を捻っていた。それ以外の面子も目が点だ。いやあ、人間て本当に目が点になるんだな。


「照れくさいのだが、カケルに助言されてな。即座に求婚したらミューも承諾してくれた。結婚式はダイムーに帰ってからだが」


「考え方が同じだったから、すごく共感できたのよ~」


「と、とりあえず・・・・ おめでとー!!」 「おめでとう!」 「やったなアル!」 「良かったなミュー!」


呆然としてしまったのだがやっと祝福の言葉をかけたユリカに釣られ、みんなで声をかける。今日からミュー=カザタはミュー=ソクラテスだ。夫婦で騎士、いいじゃないか。


ユリカは自分のときのことを思い出したのか、ミューに釣られたのか一緒になって泣いて、ミューと抱き合って喜んでいた。仲間の慶事は本当に嬉しいものだ。


「それじゃあ、結婚式は火王城で盛大にやってみてはどうかい? 同じ研究団仲間ならうちのオヤジも文句は言わないさ!」


「いいね、みんなで盛り上がろう~! あ、ついでにユリカたちも?」


「そ、それは残念ながらまだだ! 陰謀を暴いてからじゃないとカケルの命が危ない」


「ああ、そうだったよね~」


マスタの提案に乗って俺たちも、と考えたミューをアルがたしなめる。いい夫婦だな。


「じゃあユリカとカケルが、あとトレノちゃんもちゃんと結婚できるように、悪いやつらは全員捕まえましょ~!」


本当に照れくさいものだが、仲間に助けてもらえるというのは嬉しいことだ。ミューの掛け声に俺とユリカ以外の全員が「おー!」と応じていた。





――――暗い部屋で、またしても機嫌の悪い主人が、以前よりさらに小さくなって恐縮する配下を嘗め回すように見ながら呆れた声で報告に対する質問を出していた。


「で? 結局戦闘を確認せずに街に戻って、気がついたらアルマトゥイで戦闘終了の話が聞こえてきたと?」


「は、はっ・・・思ったより巨大になってしまい・・・」


「身を隠すところの無い砂漠でけしかける提案をしたのはお前だ」


「はっ・・・しかし闇の賢者がこれほどまでに強いとは・・・」


「馬鹿か。女だからと甘く見るな。特異な加護ということは強大な詠唱も持っている」


「次のアトラタスでは闇の賢者を消し去り・・・」


「そこに固執するな。私が欲しいのは太陽王の情報だ。お前も、お前の息子も少々頭が弱いのだから、間違いを起こさないようにちゃんと躾けておけ」


「はっ・・・太陽王の情報が入りやすくなるようにいたします」


「話は終わりだ」


「はっ、失礼します」


滝のような汗をかいた配下が、歯軋りをしながら暗い部屋を出て行った。主人はため息をついて苛立ち気味に机の上に置いてあった酒を飲み干していた――――

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